当事務所では,インターネット上での投稿について開示請求された方(≒発信者情報開示に係る意見照会書が届いた方),弁護士から内容証明郵便を受け取った方からのご相談を多数いただいています。
ご事情をお伺いしていると,開示請求等の理由としては,著作権侵害(複製権侵害や公衆送信権侵害)や名誉毀損等(誹謗中傷)が多い印象です。
また,開示請求等の対象となったインターネット上の投稿については,爆サイや5ちゃんねる,雑談たぬき等の匿名掲示板や転職会議等の転職クチコミサイト,Twitter等のSNSが多くなっています。
本記事では,特に名誉毀損等を理由に開示請求された方,弁護士から内容証明郵便を受け取った方を対象に,①どのような責任を負う可能性があるのか,②どのような対応が望ましいのかをご説明します。
なお,当事務所では開示請求された方,発信者情報開示に係る意見照会書が届いた方や弁護士から内容証明郵便を受け取った方からのご相談も受け付けておりますので,お困りの方は,こちらのお問い合わせフォームから,お気軽にご相談ください。
※ 法務省が公表している「令和2年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)」を見ても,インターネット上の名誉毀損に関する相談は多くなっており,名誉毀損を理由に開示請求をされたり,発信者情報開示請求に係る意見照会書が届いたりする可能性は高まっていると考えられます。
開示請求後に負担する可能性のある責任
最初に,インターネットでの投稿について契約者情報等が開示請求された後,名誉毀損で訴えられた場合に,どういった責任を負う可能性があるのかをご説明します。
インターネット上での投稿が違法な名誉毀損行為に該当する場合には,民事上の責任と刑事上の責任を追及される可能性があります。以下,順にご説明します。
民事上の責任(損害賠償請求等)
1点目が,不法行為を理由とする損害賠償請求を受ける可能性です。民法第709条は,次のように定めています。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
民法第709条
自身の行った投稿が,インターネット上の投稿が個人や法人の名誉権を侵害したものとして違法な名誉毀損行為に該当する場合,この規定に基づき,名誉毀損行為によって生じた損害を賠償する責任を負います。
実際に最近では,ブログ上の名誉毀損を認定して165万円の支払いを命じた判決も出されました(THE SANKEI NEWS「篠原孝議員の名誉毀損認定 東京地裁」)。
刑事上の責任(名誉毀損罪等)
2点目が,刑罰を科される可能性です。具体的には,名誉毀損罪や侮辱罪,信用毀損罪,業務妨害罪が成立し,次のような刑罰を負う可能性があります。
- 3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金…名誉毀損罪
- 拘留または科料…侮辱罪
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金…信用毀損罪
- 3年以下の懲役または50万円以下の罰金…業務妨害罪
「実際に,どの程度の確率で刑罰が科されるのか。」
このようなご質問を受けることもありますが,なかなか数値として確率をお出しするのは難しいものの,実際に刑罰を科されている例は少なくなく,刑罰が科される可能性は低いわけではないと考えられます。
メディアにおいて,名誉毀損行為に関して刑罰が科された事件を取り上げられた例として,次のようなものが挙げられます。
なお,令和3年9月14日には法務大臣が,インターネット上での名誉毀損を含む誹謗中傷に関し,次のように述べています。
近時,インターネット上の誹謗中傷が社会問題化していることを契機として,誹謗中傷に対する非難が高まるとともに,こうした行為を抑止すべきとの国民の意識も高まっています。こうしたことに鑑みると,公然と人を侮辱する侮辱罪について,厳正に対処すべき犯罪であることを示し,抑止することが必要であると考えられます。そこで,早急に侮辱罪の法定刑を改正する必要があると思われることから,9月16日に開催予定の法制審議会に諮問することとしました。
法務省「法務大臣閣議後記者会見の概要」
開示請求された投稿と名誉毀損への該当性
爆サイや5ちゃんねる,雑談たぬき等の匿名掲示板その他の媒体でなされたインターネット上の投稿に関して開示請求されたのちに名誉毀損で訴えられた場合,実際に当該投稿が違法な名誉毀損行為に該当するときは,上記のような責任を負担する可能性があります。
それでは,どのような投稿であれば,違法な名誉毀損行為に該当することになるのでしょうか。
インターネット上の投稿が違法な名誉毀損行為に該当するか否かは,民事上の責任追及との関係では,概ね次のような観点から判断されます。
- 個人や法人の社会的評価を低下させるか。
- 違法性阻却事由が認められるか。
インターネット上の投稿に関して開示請求された場合,こちらの要件を理解しておかないと,間違った対応を行ってしまうリスクがあります。
そこで,これらの要件について,概要をご説明します。
社会的評価の低下
まず,対象となる投稿が特定の個人や法人の社会的評価を低下させるかが問題になります。
社会的評価を低下させるか否かは,一般読者の普通の注意と読み方で判断されると考えられている点には注意が必要です(最高裁昭和31年7月20日判決)。
違法性阻却事由
次に,特定の個人や法人の社会的評価を低下させる投稿に関し,違法性を否定するような特別な事情が存在しないかが問題になります。
たとえば,特定の事実を指摘して人の社会的評価を低下させるような投稿が問題となる場合には,次の3つの条件を満たすとき,違法性が否定されると考えられます(最高裁昭和41年6月23日判決)。
- 公共の利害に関する事実であること
- 公益を図る目的でなされたものであること
- 内容が真実であること
爆サイその他のインターネット上の投稿に関して開示請求された場合の対応
ここからは,以上でご説明した事項を前提に,インターネット上の投稿に関して開示請求された場合の対応方法をご説明します。
発信者情報開示に係る意見照会書が届いた段階
最初に,名誉毀損を理由とする発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合には,早期に何らかの回答を行うようにしましょう。
「発信者情報開示に係る意見照会書」は,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律に基づく意見の照会に使用される文書です。
この意見照会書を無視するのは適切な判断とは言えません。
この点については「発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合に開示を拒否して良いか」もご参照ください。
発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合には,発信者情報の開示に同意するか,発信者情報の開示を拒否するかを決断した上で,その決断に従って行動する必要があります。
こちらの決断が難しい場合には,一度弁護士に相談されるのが良いと考えます。弁護士に相談することで,問題とされている投稿が名誉毀損に該当すると判断される可能性について弁護士からアドバイスを受けられます。
そして,発信者情報の開示を拒否することにした場合,単に拒否したとしても,プロバイダ(KDDIやソフトバンクなど)の裁量によって開示される可能性は残ります。そのため,弁護士に相談して回答書作成に関するアドバイスをもらう方が良いでしょう。
回答書作成を弁護士に依頼することで,対象となるインターネット上の投稿が違法な名誉毀損行為に該当しないことを法的知識を踏まえて文章にしてもらうことができます。
これにより,次のようなメリットを受けられます。
- プロバイダから発信者情報開示請求者に対して任意で発信者情報が開示される事態を回避できる可能性がある。
- 発信者情報開示請求者とプロバイダとの訴訟においてプロバイダが勝訴し,その結果,投稿者(発信者)の情報の開示を防止できる可能性がある。
他方で,発信者情報の開示に同意する場合についても,同意するとともに示談交渉等に向けた一定のアクションを行うことが望ましい場合も少なくありません。弁護士に相談することで,適切なアクションをアドバイスしてもらえるでしょう。
なお,当事務所では,名誉毀損を理由とする発信者情報開示に係る意見照会書への回答方法のアドバイスも行っておりますので,お困りの方はこちらのお問い合わせフォームから,お気軽にご相談ください。
弁護士からの内容証明郵便が届いた段階
次に,名誉毀損となる可能性のある投稿に関して,名誉を毀損されたとする人の代理人弁護士から内容証明郵便等が届いた場合には,1人で悩まず,早期にインターネットトラブルの解決に注力している弁護士に相談しましょう。
特にインターネット上の投稿が違法な名誉毀損行為に該当した場合に認められる損害賠償の金額等については,さまざまな情報がインターネット上に溢れています。
そのため,1人で解決しようとすると,過度に不安になってしまったり,焦って不適切な対応を行ってしまったりする可能性があります。
インターネットトラブルの解決に注力している弁護士であれば,具体的な投稿の内容等に応じて,必要なアドバイスの提供や,名誉を毀損されたとする人との間での交渉の代理を行ってもらえます。
心理的な負担を軽くする意味でも,一度弁護士に相談されるのをお勧めします。 当事務所でも,必要なアドバイスの提供や交渉の代理業務を行っておりますので,こちらのお問い合わせフォームから,お気軽にご相談ください。
最後に
本記事では,インターネット上での投稿に関して名誉毀損で訴えられた場合に知っておくべき事項に加え,負担させられる可能性のある責任の内容等をご説明しました。
本記事が,開示請求された方や弁護士からの内容証明郵便が届いてお困りの方の参考になれば幸いです。
※ インターネット上での投稿に関して名誉毀損が問題となる案件は年々増加しているように見受けられます。令和2年度に違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)に寄せられた相談内容の約60%が名誉毀損・信用毀損に関する相談であったことを示す資料もあります(令和2年度 インターネット上の違法・有害情報対応 相談業務等請負業務 報告書(概要版))。今後は,インターネット上の投稿に関して名誉毀損を理由に損害賠償請求等が行われるケースも増加していくものと考えられます。