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痴漢の刑の相場は?罰金・懲役・執行猶予になった過去の事例を紹介

弁護士が依頼者の方からよく聞かれるご質問として、「刑の相場はどれくらいでしょうか」といったものがありあます。この記事では、実際にあった過去の事例(裁判例)をもとに、罰金・懲役・執行猶予となったケースと、各判決のポイントをご紹介します。

痴漢の法定刑

いわゆる「痴漢」は俗称で、法律に「痴漢罪」のような規定があるわけではありません。実務上、痴漢行為は、都道府県が定めた条例違反または刑法上の強制わいせつ罪として処理されます。

東京都、埼玉県、千葉県の場合、痴漢行為(迷惑防止条例違反)の法定刑は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

神奈川県の場合、痴漢行為(迷惑防止条例違反)の法定刑は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

強制わいせつ罪の法定刑は6月以上10年以下の懲役です。

東京都迷惑防止条例と、強制わいせつ罪(刑法)の条文は次のとおりです。

第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行 為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
(1)公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。

東京都迷惑防止条例

(強制わいせつ)第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

刑法

条例と刑法のどちらが適用されるかは事案の具体的内容によって異なりますが、過去の裁判例等を見ると、「被害者の下着に手を入れて触ったか否か」という点が、適用条文を振り分ける重要な要素となっていると考えられます。

なお、「法定刑」は刑の範囲を定めたものに過ぎず、実際には裁判にならずに終わる「不起訴処分」となる場合や、執行猶予が付く(刑の執行の猶予期間が与えられる)場合があります。

刑の相場は?実際にあった裁判例一覧

ここからは、①罰金となった事例、②執行猶予付きとなった事例、③懲役刑の実刑となった(執行猶予が付かなかった)事例、④無罪となった事例の順に、実際にあった過去の裁判例をご紹介します。

1)罰金となった裁判例

裁判例①

被告人(前科1犯あり)は、電車内において、被害者(19歳)の右乳房を着衣の上から触った。


判決:罰金20万円

平成27年2月

裁判例②

被告人(前科1犯あり)は、電車内で、被害者(27歳)の下腹部に、着衣の上から自己の陰茎をズボン越しに押し当て、被害者の左乳房を着衣の上から手の甲で触った。 犯行後、被告人と被害者との間で、金15万円を支払う内容での示談が成立した。


判決:罰金30万円

平成26年4月

裁判例③

被告人(前科あり)は、被害者(18歳)の臀部を着衣の上から触るなどした。


判決:罰金40万円

平成26年1月

罰金刑が科されたケースを見ると、着衣の上から被害者の乳房や臀部に触れた事案が多い印象を受けます。また、被害者の方と示談をしたとしても、起訴されて罰金刑が科されている事例があることもわかります。

2)執行猶予付きとなった裁判例

裁判例①

被告人は、走行中の電車内において、被害者(16歳)の陰部を、着衣の上から手で触った。


判決:懲役6月、執行猶予3年

令和3年6月9日

裁判例②

被告人(前科・前歴なし)は、走行中の電車内において、被害者A(18歳)の臀部を着衣の上から手で触り、また、路上において、自転車で進行中の被害者B(16歳)に対し、その右後方から原動機付自転車を運転して接近し、追い抜きざまに、被害者の臀部を着衣の上から左手で触る等の行為を約2か月間のうちに立て続けに5件行った。一部の被害者との間では、金40万円を支払う内容で示談が成立した。


判決:懲役6月、執行猶予3年(保護観察付)

令和2年6月5日

裁判例③

被告人(前科なし)は、電車内において、被害者(29歳)の下着に手を差し入れて陰部を触るなどした。被告人と被害者との間では、金20万円を支払う内容での示談が成立した。※強制わいせつ罪が適用された事例


判決:懲役1年6月、執行猶予4年

平成25年7月

裁判例④

被告人(前科なし)は、電車内において、被害者(15歳)の下着に指を入れ、膣内に手指を挿入するなどした。※強制わいせつ罪が適用された事例


判決:懲役2年6月、執行猶予3年(保護観察付)

平成26年8月

罰金刑ではなく懲役刑が選択されたケースを見ると、被害者の陰部に触れた事案が多い印象を受けます。また、被害者の下着の中に手を入れて直接陰部に触れたような事案では、条例違反ではなく強制わいせつ罪が適用される傾向があるように見受けられます。

3)懲役刑の実刑となった裁判例

裁判例①

被告人は、電車内において、被害者(39歳)に対し、その胸元付近を直接手で撫でた(以下「本件」という。)。被告人は、本件以前に、1人暮らしの女性が就寝する部屋に侵入したという住居侵入の罪で、懲役10月、3年間の執行猶予の判決を宣告されており、本件はその執行猶予期間中の犯行であった。


判決:懲役4月

令和元年6月17日

4)無罪となった裁判例

裁判例①

被告人は、進行中の電車内で被害者(14歳)の陰部を着衣の上から手指で触るなどしたという内容で、東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた。被告人は、痴漢行為をしてないとして無罪を主張して争った。本判決は、被害者の証言が唯一の証拠となることから、慎重な判断が求められることを前提に、被害者の証言は真実を述べている可能性も十分にあるとする一方で、なお合理的な疑いを差し挟む余地は残るとして、被告人を無罪とした。


判決:無罪

平成30年11月21日

裁判例②

被告人は、走行中のバスの社内で、被害者(17歳)の臀部を触るなどしたという内容で、迷惑防止条例違反の罪に問われた。本判決は、痴漢行為が行われたとされる時間帯に、被告人が携帯電話でメールの受送信をしているところ、車載カメラの映像の解析の結果、被告人が左手でつり革を掴みながら右手で携帯を操作していたという状況が相当窺われ、痴漢行為を行ったと認めるには合理的な疑いが残るとして、原判決を破棄し、被告人を無罪とした。


判決:無罪

平成26年7月15日

痴漢の事案でよくあるご質問

1)罰金になるのか懲役になるのかはどのように決まりますか?

例えば、「初犯」や「示談の成立」など、このような事情があれば絶対に罰金になる(なければ懲役になる)といった法律や決まりはありません。

裁判官は、痴漢行為に至った動機や具体的な行為態様(被害者の着衣の上から触ったのか、被害者の陰部を触ったのかなど)、被告人の反省の程度等、あらゆる事情を考慮して刑の重さを決定します。

2)初犯だと不起訴になりますか?

確かに、これまで何度か痴漢を繰り返してきた人よりも、初めて痴漢行為を行った人(初犯)の方が、不起訴になる可能性が高いように思います。

ただし、初犯だから必ず不起訴になる、といったようなルールはなく、初犯でも起訴されて前科がつくケースがある点には注意が必要です。

3)示談をすれば不起訴になりますか?

示談が成立しなかった場合と比較すれば、示談が成立した場合の方が、不起訴になる可能性は高くなるでしょう。

ただし、示談が成立したから必ず不起訴になるという決まりはありません。本記事でご紹介した事例のように、示談が成立したとしても起訴されることもあり得ます。

ご相談者様からご質問いただくことも多い「示談の意味や効果」については、下記の記事でさらに詳しく解説しています。

示談すれば不起訴になる?示談の意味や効果について弁護士がわかりやすく解説

4)示談をすれば刑が軽くなりますか?

起訴・不起訴の判断の場合と同様、一般論としては、示談が成立した場合の方が刑が軽くなる可能性が高いでしょう。

ただし、示談が成立したから必ず刑が軽くなる、という決まりはありません。示談の成立は、あくまで“裁判官が刑の重さを決める際の1つの事情”という位置付けとなります。

最後に

本記事では、実際にあった過去の痴漢の事例(裁判例)をもとに、罰金・懲役・執行猶予・無罪となったケースをご紹介しました。

当事務所では、痴漢事案については数多く取り扱っておりますし、その他の刑事弁護にも対応しております。ご家族が痴漢の疑いで逮捕されてしまった、あるいはご自身が痴漢を疑われていて困っているという方は、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談いただければ幸いです。

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