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顧客情報や取引先リストの持ち出しは犯罪?不正競争防止法について弁護士が解説

従業員が勤務先を退職するときに、勤務先の顧客や取引先の名称・所在地・電話番号・FAX 番号・担当者の氏名やメールアドレスなどの情報を持ち出し、その情報を転職先や独立先で使用したり、顧客情報を売却したりしてしまうことがあります。 

このように、従業員や元従業員(退職者)が顧客情報等を持ち出して使用した場合、どのような法律に違反することになるのでしょうか。弁護士が解説します。

1 顧客情報や取引先リストの持ち出しは犯罪になる?

第一に、従業員や元従業員(退職者)が顧客情報や取引先リスト等で不正競争防止法にいう「営業秘密」に該当する情報を持ち出して使用した場合、当該「営業秘密」を持ち出した人やそれを使用した人は、不正競争防止法違反として刑事責任を負う場合があります。

「営業秘密」を持ち出したり使用したりすることによって同法に違反した場合には、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金あるいはその両方が科されます不正競争防止法 第21条1項1号~9号)

第二に、従業員や元従業員(退職者)が「営業秘密」を不正に持ち出したり、使用したりすることで会社に損害を与えた場合、会社に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

なお、「損害賠償責任」は民事上の責任であり、刑事上の責任(懲役や罰金)とは別の責任です。

2 「営業秘密」とは何か

従業員や元従業員(退職者)が顧客情報や取引先リストを持ち出したり使用したりした行為が不正競争防止法に違反するといえるためには、当該情報が「営業秘密」(不正競争防止法第2条6項)に該当する必要があります。

この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。

不正競争防止法第2条6項

上記の不正競争防止法における「営業秘密」の定義を整理すると、以下3つの要件に分けることができます。

  • ①秘密として管理されていること(秘密管理性)
  • ②事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)
  • ③公然と知られていないものであること(非公知性)

これらの要件を見てもわかるように、会社が保有している情報のすべてが「営業秘密」になるわけではありません。上記の3つの要件をすべて満たしてはじめて「営業秘密」に該当します。

ここからは、各要件について順に解説していきます。

(1)秘密として管理されていること(秘密管理性)

「営業秘密」に当たるか否かを判断する際に、問題となりやすいのが秘密管理性です。

客観的に秘密として管理されていない情報は、その情報を見た人に「自由に使用・開示できる情報である」との認識を抱かせてしまうことがあります。

そのような情報まで「営業秘密」としてこれを持ち出したり使用したりする行為を処罰対象としてしまうと、かえって混乱を招きかねません。そのような理由で、秘密管理性の要件が設けられています。

顧客情報や取引先リストに秘密管理性を認める方向の事情として、例えば以下のような事情が挙げられます。

  • 顧客情報や取引先リストが含まれている書類やUSBその他の媒体に「部外秘」「厳秘」「秘」などと記載している。
  • 特定の社員(従業員)以外の者が顧客情報や取引先リストにアクセスできないような措置がとられている。

このような事情があると秘密管理性が認められやすくなります。

もっとも、秘密管理性の判断は具体的状況に即して判断されるものであり、絶対的な基準はありません。

例えば、「顧客情報や取引先リストが含まれている書類に『部外秘』と書いておけば必ず秘密管理性が認められる」というわけではない点には注意が必要です。

(2)事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること(有用性)

「技術上又は営業上の情報」の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 製造技術、設計図、実験データ、研究レポート等
  • 顧客名簿、顧客データベース、販売マニュアル、取引先リスト等

このように、顧客名簿や取引先リスト以外にも、さまざまな情報が「営業秘密」に該当し得ます。

ただし、これらの情報が「事業活動に有用」であることが必要です。

例えば、社内の役員や従業員に関する個人的なスキャンダルや、虚偽の情報などは、事業活動のために有用な情報とはいえず、不正競争防止法でいう「営業秘密」には当たりません。

(3)公然と知られていないものであること(非公知性)

非公知性は、「不特定の者が公然と知りうる状態にないこと」で足りるものと解されています。

例えば、すでにインターネット上のWEBサイトや書籍に掲載されているノウハウ等は、不正な手段によることなく誰もが手に入れることができます。このような情報には非公知性がなく、不正競争防止法上の「営業秘密」には当たりません。

3 顧客情報を持ち出したことで有罪(懲役・罰金)となった事例

顧客情報を会社から持ち出すと、懲役刑や罰金刑が科されることがあります。

実際に、以下のような事例で懲役刑や罰金刑の判決が言い渡されています。

裁判例1

被告人は、通信教育等を業とする株式会社Aの情報システムの開発等の業務に従事し、その顧客情報にアクセスする権限を付与されていた。被告人は、その立場を利用して顧客情報を領得し、その一部を名簿業者に販売した。


判決:懲役2年6月及び罰金300万円の実刑判決(執行猶予なし)

平成29年3月21日

裁判例2

信用金庫の職員であった被告人は、顧客2名分の氏名、生年月日、住所、勤務先名称、年収等の情報を、PCを用いて表様式に入力して紙面に印刷する方法で持ち出した。さらに、被告人は交際相手に対して同紙面を交付し、取得した顧客情報を開示した。


判決:懲役2年及び罰金150万円(懲役刑の執行猶予4年)

平成28年12月12日

4 顧客情報を持ち出したことで損害賠償責任が認められた事例

顧客情報を会社から持ち出したことで会社に損害を与えた場合、持ち出した人は会社に対して損害賠償責任を負うことがあります。

実際に、以下のような事例で損害賠償の支払いを命じる判決が言い渡されています。

裁判例3

中古車販売会社Aの従業員が、退職する際に顧客情報を持ち出して転職し、転職先において持ち出した顧客情報を利用して、自動車の販売を行った。顧客情報には、中古車販売会社Aのインターネットサイトから会員登録をした顧客の氏名又は名称、担当者名、担当者のEメールアドレス、電話番号並びに国及び地が含まれていた。


判決:約1億4000万円の損害賠償

平成25年4月11日

裁判例4

かつらの販売業を営むA社に勤務していた従業員Xは、A社の代表者と些細なことで口論をしたことがきっかけでA社を退職した。退職後は、独立してかつらの販売業を営むことにしたが、その際、Xはかつて自己が店長を務めていたA社の店舗に保管されている顧客名簿を無断で持ち出してコピーを取り、そのコピーを利用してAの顧客に対し次々と電話を掛けるなどして、独立先の店舗に来るよう勧誘した。


判決:約50万円の損害賠償

平成8年4月16日

5 最後に

本記事では、顧客情報や取引先リストなどで、「営業秘密」に該当する情報を持ち出したり使用したりした場合の法的責任について解説しました。

当事務所では、「顧客情報を持ち出したとして前の勤務先とトラブルになってしまった。」などの元従業員(退職者)の方からのご相談や、「元従業員(退職者)が顧客情報を持ち出して無断で使用しているが、何かできないか。」などの企業側からのご相談も多くいただいております。

民事上の損害賠償請求に関する対応はもちろん、刑事弁護/刑事告訴にも対応しておりますので、お困りの方はこちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

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