本記事では、初めて遺言書を書く方に向けて、知っておきたい基本的な知識をご紹介した上で、遺言書の具体的な書き方や文例、遺言書作成を弁護士に依頼するメリットやデメリットについて解説します。
1 遺言書とは
遺言書とは、死後の財産の処分方法等について明記した書類のことです。一般的には、「遺言」や「遺言状」と呼ばれることもあります。
なお、「ゆいごん」と呼ばれることも多いですが、法律上は「いごん」と読みます。
遺言については、法律で厳格な要件が定められています。「あの人は、生前にこう言っていた」などといっても、あるいは、録音や録画でメッセージを残すなどしても、それらに遺言としての法律上の効力は認められませんので注意しましょう。
2 遺言書の方式
遺言書を作成しようと考えたときは、まず初めに、作成する遺言書の方式を決める必要があります。遺言書には、一般的には3つの方式があります。
- 自身で作成する「自筆証書遺言」
- 公証人に作成をお願いし、公証役場で保管する「公正証書遺言」
- 内容を誰にも知られない「秘密証書遺言」
(1)自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が、作成した遺言書の全文、日付及び氏名を自書し、これに押印することによって作成するという方式の遺言です(民法第968条第1項)。一般的に「遺言書」と言われたときに多くの方がイメージされるのは、この「自筆証書遺言」ではないでしょうか。
自筆証書遺言は、自宅にいながら自身の好きなタイミングで書くことができるため、3つの遺言書の中でも最も手軽に作成できる遺言書です。
ただし、後述するように、遺言書の記載内容や記載方法については、厳格なルールが法律に規定されています。少しでも法律上の要件を満たしていないと、遺言書の効力が無効となってしまうこともある点には注意が必要です。
(2)公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場にいる公証人が、遺言を作成したい人から口授(くじゅ:口頭で遺言内容を述べること)を受けて作成する遺言のことです。
公正証書遺言は、公証役場という公的な機関で作成する遺言書ですから、うっかりとしたミスによって遺言の効力が無効となってしまうリスクを軽減することができます。
ただし、公正証書遺言を作成するためには、公証人の他に、証人2人の立会いや、公証人に支払う手数料が必要となるなど、作成方法や金銭的な負担が自筆証書遺言の場合と異なります。
なお、令和2年の公正証書遺言の作成件数は9万7700件であり、多くの方が利用されていることがわかります。令和2年の遺言公正証書作成件数について | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)
(3)秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、公証人1人と証人2人以上に遺言書の「存在」の証明をしてもらいながら、公証人、証人、相続人を含め、本人以外の人物に遺言内容を秘密にすることができる遺言書です。
遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき、かつ、遺言の内容を誰にも明らかにせず、秘密にすることができるのが秘密証書遺言の特徴です。
ただし、秘密証書遺言は、公証人を関与させるなどして手間がかかるにもかかわらず、遺言の内容については自身で作成することになり、自筆証書遺言の場合と同様、内容が法律的に不明確となってしまう可能性があるため、あえて秘密証書遺言を利用したいと考える方は少なく、利用者は年間で100件程度に留まるといわれています。
3 遺言書の書き方
(1)自筆証書遺言の書き方
ア 用意するもの
遺言書を作成する際に必要なものは、以下の4点です。
- 遺言書を書く紙(遺言書を法務局に預ける場合は、A4サイズで地紋や彩色などがないもの)
- 遺言を入れる封筒
- ボールペンや万年筆などのペン(偽造・変造を防ぐため、消せるペンは避ける)
- 印鑑(実印・認印など)
自筆証書遺言には、縦書きや横書き、紙や封筒の種類について特に規定はありません。ただし、法務局に遺言書を保管してもらう「自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合には、民法上の要件に加えて、「最低限、上部5ミリメートル、下部10ミリメートル、左20ミリメートル、右5ミリメートルの余白をそれぞれ確保しなければならない」など、様式についてもいくつかの決まりがあります。
法務局に遺言を保管する場合の所定の様式は、法務省HP「 遺言書の様式等についての注意事項 | 自筆証書遺言書保管制度 (moj.go.jp)」をご覧ください。
イ 必須の項目と注意点
遺言書には、以下の内容を必ず記載します。
- 遺言内容
- 作成日付
- 遺言者の署名
- 遺言者の押印
そして、自筆証書遺言の場合には、遺言書の全文、遺言の作成日付及び遺言者氏名を、必ず遺言者が自書し、押印します。
遺言書の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載します。
なお、「昭和四拾壱年七月吉日」と記載された遺言書について、具体的な日付が特定できないため無効とした判例があります(裁判例結果詳細 | 裁判所 – Courts in Japan)。
遺言の対象となる財産を特定するために添付することも多い「財産目録」は、自書ではなくパソコンを利用したり、不動産(土地・建物)の登記事項証明書や通帳のコピー等の資料を添付する方法で作成することも可能です。ただし、その場合は、その目録の全てのページに署名押印が必要です(民法968条2項)。
書き間違った場合の訂正や、内容を書き足したいときの追加は、その場所が分かるように示した上で、訂正又は追加した旨を付記して署名し、訂正又は追加した箇所に押印します(民法968条3項)。
ウ 自筆証書遺言の文例
参考として、自筆証書遺言の文例をご紹介します。
※ あくまでイメージするための例であり、本記載をあらゆる事案に流用できるわけではありませんのでご注意ください。
(2)公正証書遺言の書き方
ア 準備しておくこと
公正証書遺言は公証人が作成してくれるので、遺言者が紙やペンを用意する必要はありません。もっとも、事前に以下の準備をしておく必要があります。
- 財産の把握に必要な資料(不動産の登記簿謄本等)や、相続人の把握に必要な戸籍謄本を取得しておく
- 希望する遺言の内容を決めておく
- 公正証書遺言作成時に証人として立ち会ってもらうことを、2人以上にお願いしておく
※ただし、下記に該当する人は証人になれません(民法第974条)。- 未成年者
- 相続人となる予定の人や受遺者、それらの配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者や四親等以内の親族
- 公証役場の書記や従業員
- 公証人に支払う手数料を用意しておく
イ 公正証書遺言の作成の流れ
公正証書遺言は、以下のような流れで作成します。
- 公証人や弁護士と打ち合わせを行い、遺言の細かな文言を詰め、法的に問題のない文案を作成する。
- 文案が完成したら、実際に公証役場で作成する日時を調整し、公証役場に支払う手数料を確認する。
- 証人2名の立会いの下、公証役場で公正証書遺言を作成する。
公正証書遺言の作成費用(手数料)は、遺言の目的である財産の価額に対応する形で決定されます。一般的には1万円~10万円程度となることが多いでしょう。
なお、公正証書遺言は原則として公証役場で作成しますが、本人が公証役場に行けない場合は、病院や介護施設等で作成することもできます。その場合は、公証人が出張することになるため、別途日当等の費用が発生します。
公正証書遺言を作成する際の費用等の詳細については、以下のページの「3 公正証書遺言の作成」の「Q7」をご覧ください。
遺言 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)
(3)秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言は、以下の手順で作成します。
- 遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をし、これを封筒に入れて、遺言書に押印した印章と同じ印章で封印する。
- 公証人及び2名以上の証人の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨と,その筆者の氏名および住所を申述する。
- 公証人が、その封紙上に、証書を提出した日付および遺言者の申述を記載した後、遺言者及び証人2名とともに、その封紙に署名押印する。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言と異なり、自書である必要はありません。PC等を用いて文章を作成しても、第三者が筆記したものでも、差し支えありません。
ただし、 秘密証書遺言では、公証人らが遺言書の内容を確認することができないので、遺言書の内容が法律的に不明確になってしまう可能性もあります。
そのようなデメリットがあることから、あまり利用されていません。
4 遺言書の作成は弁護士に依頼することもできる
作成する遺言の方式が自筆証書遺言であっても、公正証書遺言であっても、弁護士に作成のサポートを依頼することが可能です。ここでは、遺言書作成を弁護士に依頼するデメリットとメリットをご紹介します。
(1)遺言書の作成を弁護士に依頼するデメリット
やはり、遺言書の作成を弁護士に依頼する場合のデメリットは、自力で遺言書を作成した場合には発生しない「弁護士費用」がかかってしまう点にあります。
なお、弁護士に遺言書の作成を依頼した場合、一般的には、少なくとも15万円程度の弁護士費用が発生します(遺言内容や財産状況によって変動する可能性もあります。)。
(2)遺言書の作成を弁護士に依頼するメリット
ア 遺言が無効になるリスクを回避できる
弁護士に遺言書の作成を依頼する最大のメリットは、せっかく作った遺言書が無効になってしまうというリスクを回避できる点にあります。
遺言書の記載内容や形式面に不備があると、遺言の効力が無効となることがあります。その場合、法律に従って相続されるのが原則となるため、被相続人(お亡くなりになられた方)の意思が反映されなくなってしまいます。
なお、作成したい遺言書が「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」のいずれであっても、弁護士にサポートを依頼することができます。どのような方式の遺言書であっても、共通して重要なのは“法的に不備のない文案を作成すること”だからです。
イ どのような遺言書を作成すべきかアドバイスしてもらえる
相談者様によっては、そもそも遺言の内容で迷っていたり、どのような種類の遺言書を作成すべきか悩んでおられる方もいらっしゃいます。
場合によっては、そもそも遺言による解決が適切ではない事案である可能性も否定できません。
弁護士に、遺言書を作成しようと考えた背景も含めて相談すれば、そもそも遺言書を作るべきか、作るとしてどのような記載にすると後々揉めないかなど、裁判例や経験を踏まえたアドバイスを受けることができます。
後々の法的な紛争を可能な限り回避するという観点でのアドバイスを受けながら遺言書を作成できるのは、弁護士に依頼する大きなメリットです。
5 最後に
本記事では、初めて遺言書を書く方のために、遺言に関する知識、遺言の具体的な書き方や文例、弁護士に依頼するメリットやデメリットをご紹介しました。
当事務所では、遺言書の作成や相続放棄等のご相談も受け付けております。お困りの方はこちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。