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悪質な投稿を行う投稿者を特定する方法と費用は?

インターネットの発展・普及に伴い、TwitterなどのSNSやYouTube、ブログなどに悪質な投稿を行う投稿者が増加しています。

このような悪質な投稿の中には、誹謗中傷によって名誉権や名誉感情を侵害するもの、プライバシー権を侵害するもの、著作権を侵害するものなどが存在します。

本記事では、このような悪質な投稿にお困りの方に情報を提供する観点から、①不当な権利侵害を行う投稿者を特定する手続の流れ②当該手続に要する時間や費用などについてご説明します。

投稿者を特定する仕組みと特定に至るまでの手続の流れ

最初に、投稿者を特定する仕組みと特定に至るまでの手続の流れについてご説明します。

投稿者を特定する仕組み

投稿者を特定する手続の流れを理解する上では、投稿者を特定する仕組みを先に理解しておくことが有益です。

IPアドレスの特性

インターネット上で権利侵害を伴う投稿を行う人を特定するために利用するのは、「IPアドレス」という情報です。

IPアドレス(グローバルIPアドレス)は、インターネットに接続している機器に一意に(個別に)割り当てられる情報です。世界中で、同時には重複しません(総務省「IP(アイピー)アドレス、ドメインネーム、URL(ユーアールエル)って何?」)。

そして、IPアドレスは、インターネット回線を提供する「インターネットサービスプロバイダ」との間で(氏名や住所等の情報を提供して)契約をすることによって当該プロバイダから個別に割り当てられます。特定のIPアドレスと、これを割り当てられた契約者の(氏名や住所等の)情報は結び付いています。

したがって、権利侵害を伴う投稿を行った人がその際に利用していたIPアドレスが判明すれば、最終的に、当該投稿者に関する(氏名や住所等の)情報を特定できます。

※ なお、ご自身が利用しているIPアドレスは、例えばこちらのサイトから確認することができます。

※ ただし、後述のとおり、インターネットサービスプロバイダは、一般的には、利用者がインターネットを利用するごとに異なるIPアドレス(動的IPアドレス)を当該利用者に割り当てています(そのときどきで割り当てられているIPアドレスが異なるということです。)。そのため(つまり、特定のIPアドレスと結びついた契約者情報がそのときどきで異なるため)、正確には、IPアドレスだけではインターネットサービスプロバイダは契約者情報を特定することができず、契約者情報の特定のためには、少なくとも、投稿日時やログイン日時といった時的な情報等も別途必要になります(「『いつ』このIPアドレスを割り当てられていた契約者か」ということがわかってはじめて契約者情報を1つに絞ることが可能になるということです。)。もっとも、本記事では、投稿者を特定する手続についてできるだけ簡潔にご説明する観点から、投稿者特定のために必要な情報を単に「IPアドレス」とだけ記載します。

アクセスログの特性

それでは、権利侵害を伴う投稿を行った人がその際に利用したIPアドレスは、どのような方法で特定できるでしょうか。

インターネット上で投稿が行われた際には、その投稿に関する通信記録が、投稿先のWebサービス運営者(匿名掲示板管理人等)が利用するサーバに残されます。

この通信記録(=アクセスログ)には、投稿者が利用していたIPアドレス(スマートフォンなどに割り当てられたIPアドレス)やアクセス日時などの情報が含まれています。

したがって、権利侵害を伴う投稿をされた方は、Webサービスの運営者や当該Webサービスに係るサーバ管理者に対してアクセスログに含まれる投稿者のIPアドレスの開示を請求することによって、当該投稿を行った者が当該投稿の際に利用したIPアドレスを突き止められます。

投稿者を特定する手続の流れ

上記のような仕組みで投稿者を特定するため、投稿者を特定する手続は、次の2つのステップを踏むことになります。

  1. 1)権利侵害を伴う投稿がなされたWebサービスの運営者や当該Webサービスに係るサーバの管理者に対し、アクセスログに含まれる投稿者のIPアドレスの開示を請求する(第1段階)
  2. 2)上記1)の請求の結果として得られたIPアドレスを管理するインターネットサービスプロバイダに対し、当該IPアドレスを割り当てた契約者(=投稿者)の氏名、住所等の開示を請求する(第2段階)

この点については、令和3年に特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)が改正されたことで、「二段階の手続が不要になった」とも言われていますが、改正後も二段階の手続が必要になるのが現状です。

以下、この1)と2)の手続の概要をご説明します。

Webサービス運営者等に対する請求(第1段階)

権利侵害投稿がなされたWebサービスの運営者や当該Webサービスに係るサーバの管理者(以下総称して「Webサービス運営者等」)に対してIPアドレスの開示を求める方法は、基本的に次の4つです。

  • メールその他の方法による開示依頼
  • ガイドラインに基づく開示要請
  • 仮処分命令の申立て

1つ目は、メールその他の方法によってWebサービス運営者等にIPアドレスの開示を依頼する方法です。

2つ目は、一般社団法人テレコムサービス協会が制定しているプロバイダ責任制限法に関するガイドラインに従った開示要請です。

3つ目が、裁判所への仮処分命令の申立てです。これは、民事保全法上の仮処分手続の利用であり、裁判手続の1つです。

4つ目が、裁判所への発信者情報開示命令の申立てです。これは、プロバイダ責任制限法が改正されたことによって新設された手続であり、裁判手続の1つです。

これら4つの手段から、具体的なケースに合わせて適切な手段を選択します。

対象となる投稿が行われた掲示板やSNSによって、どの手続が適切かが大きく異なります。経験の豊富な弁護士に依頼することで、余計な支出を抑えることができるでしょう。

インターネットサービスプロバイダに対する請求(第2段階)

IPアドレスの開示を受けることができた場合には、当該IPアドレスをもとに、インターネットサービスプロバイダに対して契約者情報(=投稿者の情報)の開示を請求します。

このインターネットサービスプロバイダに対する請求の方法についても、①メールその他の方法による開示依頼、②プロバイダ責任制限法に関するガイドラインに従った開示要請、そして③プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示命令の申立てという3つの方法が考えられます。

インターネットサービスプロバイダに対して訴訟を提起する方法もありますが、プロバイダ責任制限法が令和3年に改正されたことによって新設された発信者情報開示命令の申立ての方が、手数料を抑えられるほか、早期に開示を命じる決定を得られるという利点があることから、訴訟提起を選択するメリットは乏しいと考えます。

しかし、通常、インターネットサービスプロバイダは、任意では契約者情報を開示しません。したがって、基本的には発信者情報開示命令の申立てを行います。

ここで注意しなければならないのは、契約者情報の開示を受けられる期間には、制限があるということです。

インターネットサービスプロバイダは、基本的に、固定された1つのIPアドレスを1人の利用者(1つの機器)に割り当てているわけではなく、利用者がインターネットを利用するごとに異なるIPアドレス(動的IPアドレス)を当該利用者(当該機器)に割り当てています。

そして、「どの利用者に、どのIPアドレスを、いつ割り当てたのか」といった履歴(アクセスログ)を記録しています。

このアクセスログがあることで、IPアドレスの特定後、権利侵害を伴う投稿がなされた時点で当該IPアドレスを利用していた契約者を特定できます。

しかし、インターネットサービスプロバイダは、一定期間(3か月から6か月程度)が経過するとこのアクセスログを消去します。

アクセスログが消去されると、IPアドレスの特定に成功しても、当該IPアドレスの情報から契約者(=投稿者)の情報を特定できません。

そのため、Webサービス運営者等からIPアドレスの開示を受けた場合には、アクセスログの保存を速やかに要請することが必要です。その方法として、任意に保存を求める場合もあれば、仮処分命令により保存を求める場合もあります。

投稿者を特定するまでに必要な時間

上記のとおり、投稿者を特定するためには、①Webサービス運営者等に対する請求と②インターネットサービスプロバイダに対する請求の2つを行う必要があります。したがって、どうしても一定の時間を要します。

①Webサービス運営者等に対する請求として裁判手続である仮処分命令の申立てを行う場合、仮処分命令の申立てからIPアドレスの開示までに概ね1か月から2か月程度を要します。プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示命令の申立てを行う場合も、概ね同程度の期間が必要です。

さらに、①の仮処分手続によって得られたIPアドレスをもとに②インターネットサービスプロバイダに対して発信者情報開示命令の申立てを行う場合には、開示命令の申立てから契約者情報の開示を受けるまでに概ね1か月から3か月程度かかることになります。

※ 投稿者による具体的な投稿内容やインターネットサービスプロバイダ等の対応方針等によってはより長期間を必要とする可能性もあります。

投稿者を特定するまでに必要な費用

それでは投稿者を特定するまでに必要な費用は、どの程度の金額になるでしょうか。

まず、①Webサービス運営者等に対する請求について裁判手続である仮処分の申立てを行った場合には、裁判所利用手数料としての2,000円に加えて切手代等の実費等が必要になります。また、担保金として、概ね10万円〜30万円程度が必要になります(担保金が必要ない事案もあります。)。なお、発信者情報開示命令の申立てであれば、担保金は不要になります。

次に、②インターネットサービスプロバイダに対する発信者情報開示命令の申立てについては、申立手数料として1000円(アクセスログの消去禁止命令も併せて申し立てる場合には2000円)に加えてレターパック代等の実費が必要になります。

そして、これらの手続を弁護士に依頼する場合には、そのための弁護士費用も必要になります。①の仮処分申立てに関する着手金と報酬金が合計約35万円程度、②の発信者情報開示命令の申立てに関する着手金と報酬金が合計35万円から50万円程度とする事務所もあるようです。

最後に

本記事では、インターネット上での悪質な投稿によって不当な権利侵害を受け、投稿者の特定を希望されている方への情報提供の観点から、悪質な投稿を行う人を特定するための手続の流れや、その手続に必要な時間・費用についてご説明しました。

上記のとおり、インターネットサービスプロバイダがアクセスログを消去してしまうと投稿者を特定できないおそれがあります。そして、インターネットサービスプロバイダによってはアクセスログの保存期間が3か月間など比較的短い場合もあります。

したがって、投稿者を特定したいと考える場合には可能な限り早期に必要な措置を講じる必要がある点にはご注意ください。悪質な投稿を発見された場合には、可能な限り早期に、一度弁護士に相談されることをオススメいたします。

当事務所にも、投稿者を特定する手続に精通しており、多数の案件で投稿者の情報開示に成功した弁護士も在籍しておりますので、こちらのお問合せフォームから、お気軽にご相談いただけますと幸いです(初回相談は30分無料)。

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