近時、当事務所では、BitTorrent(ビットトレント)やShare、PerfectDarkなどのファイル共有ソフトの利用者の方から「『発信者情報開示に係る意見照会書』が届いたので対応を相談したい。」といったご相談を受けることが増えています。
本記事では、このようなファイル共有ソフトの利用者の方に送られる意見照会書に記載されていることも少なくない「P2P FINDER」というシステムについて、その仕組みや発信者情報開示請求との関係性(およびシステムの精度等)をご説明したいと思います。
なお、「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた場合の対応方針については、「発信者情報開示請求とファイル共有ソフトによるファイルダウンロード」もご参照ください。
※ なお、本記事においては「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」を「プロバイダ責任制限法」と略します。
「P2P FINDER」とは(概要)
「P2P FINDER」とは、株式会社クロスワープが2003年から提供しているP2Pネットワークの監視システムの名称です。Winny、Share、Limewire/Cabos、BitTorrentのほか、PerfectDarkなどにも対応しているとされています。
従来からP2P型ファイル共有ソフトを利用した違法なファイルアップロードは少なくないところ、そのような違法なファイルアップロードを監視するためのシステムであると考えられます。
一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会が実施したファイル共有ソフトの利用実態調査においても、このシステムが利用されているようです(ファイル共有ソフトの利用実態調査~クローリング調査~報告書)。
発信者情報開示請求との関係
上記のような「P2P FINDER」は、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求と強い関係性を有するシステムと評価できます。その理由は次のとおりです。
プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が策定した「プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドライン」において、いわゆるP2P型のファイル共有ソフトを利用した権利侵害に関しては、発信者情報の開示を請求する者において、原則として、次の資料を提出する必要があるとされています。
- 1)P2Pを利用したユーザのIPアドレス等を特定した方法の信頼性に関する資料
- 2)発信者の故意又は過失により権利侵害が生じたということについての技術的な根拠に関する資料
しかし、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が特定方法等の信頼性が認められると認定したシステムを利用した場合には、この例外として、これらの資料の提出が不要になるとされています。
そして「P2P FINDER」は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により、特定方法等の信頼性が認められるシステムとして認定されています(P2Pファイル交換ソフトによる権利侵害情報の流通に関する検知システムの認定について)。
したがって、「P2P FINDER」は、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求に関し、(i)P2P型のファイル共有ソフトを利用して違法なファイルをアップロードした発信者のIPアドレス等を特定するとともに、(ii)当該発信者の故意または過失によって権利侵害が生じたことを示すシステムとしての信頼性が認められたシステムであると評価できます。
実際、「P2P FINDER」によるIPアドレスの特定等の正確性が争われたケースにおいて、次のような判断を行い、その信頼性を認めたものと評価できる裁判例もあります。
「P2P FINDER」は、少なくとも相当程度の精度があるとの評価を受けているものと考えられます。
本件システム(=「P2P FINDER」)は、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により…信頼性が認められると認定されたシステムである…ところ、本件全証拠によっても、本件システムが…正常に作動していなかったことをうかがわせる事情は見当たらないし、被告も正確性を疑わせる具体的事情を主張しないから、上記②に係る被告の主張(=「P2P FINDER」によるIPアドレスの特定等の正確性を争う主張)も採用できない。
東京地方裁判所平成30年7月19日判決
「P2P FINDER」の機能
それでは、「P2P FINDER」には、どういった機能があるのでしょうか。
上記のとおり「P2P FINDER」はプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会によって認定されたシステムであるため、その認定の際の認定対象および認定要件を参照することで「P2P FINDER」の機能を知ることができます。
プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会が作成した「P2P型ファイル交換ソフトによる権利侵害情報検出システムの技術的認定要件」からは、少なくとも次の機能を備えていると考えられます。
- P2P型のファイル共有ソフトのネットワークに接続する機能
- 上記ネットワークから利用者が指定するファイルをダウンロードする機能
- ダウンロード時に発信元ノード(ユーザのPC等)のIPアドレス、ポート番号、ファイルハッシュ値、ファイルサイズ、ダウンロード完了時刻等を自動的にデータベースに記録する機能
- 調査時点で発信元ノードがファイルを送信可能状態にしている場合のみ当該ファイルをダウンロードする機能
大雑把に言えば、P2P方式のファイル共有ソフトを利用しているユーザーの端末にアクセスし、その端末から対象ファイルのダウンロードを試みることができるシステムであり、ダウンロードに成功した場合にはダウンロード元の端末のIPアドレスやダウンロード完了時刻等を記録できるシステムと評価できます。
また、「調査時点で発信元ノードがファイルを送信可能状態にしている場合のみ当該ファイルをダウンロードする機能」を備えていると考えられることから、このシステムによるダウンロードが実現できた場合には、発信元ノード(=ダウンロード元の端末)が、対象ファイルを送信可能化状態に置いていたと評価できると考えられます。
これらの機能があることから、「P2P FINDER」は、著作権(複製権や送信可能化権)の侵害を発見するシステムとして利用されているものと考えられます。
最後に
本記事では、ファイル共有ソフトの利用者に対する発信者情報開示請求の際に使用されるシステムである「P2P FINDER」についてご説明しました。
冒頭でも触れたとおり、当事務所ではBitTorrent(ビットトレント)やShare、PerfectDarkなどのファイル共有ソフトの利用者の方から「発信者情報開示に係る意見照会書」への対応方針のご相談を受けることが増えております。
対象となるファイルについては、漫画やアニメ、アダルト作品(株式会社ケイ・エム・プロデュースや株式会社WILLなどが著作権を有する作品等)に関する画像または動画ファイルや、音楽作品に関する音声ファイルなどが挙げられます。
「発信者情報開示に係る意見照会書」への対応にお困りの方は「発信者情報開示請求とファイル共有ソフトによるファイルダウンロード」もご参照いただき、当事務所へのご相談をご希望の場合には、こちらのお問い合わせフォームからご連絡いただけますと幸いです。