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YouTubeでの誹謗中傷に対する開示請求の方法や費用等

YouTubeでは、動画自体コメントによって誹謗中傷を受けることがあります。

この記事では、YouTubeで誹謗中傷を受けた場合に、誹謗中傷を行った人物を開示請求によって特定する方法や、開示請求に要する費用をご説明します。

YouTubeにおける動画投稿者の開示請求

最初に、YouTubeの動画投稿者を開示請求によって特定する方法をご説明します。

これには次の2つの方法があります。

  • IPアドレスルート
  • 非IPアドレスルート

以下、それぞれの方法の詳細を確認します。

投稿者特定方法①|IPアドレスルート

まずは、IPアドレスルートです。

次のような流れで投稿者を特定します。

  • YouTubeの動画投稿時に使用された投稿時IPアドレスを特定する。
  • 当該投稿時IPアドレスを割り当てられていた契約者を特定する。

当事務所の記事「悪質な投稿を行う投稿者を特定する方法と費用は?」でご説明した2段階の手続を踏む形です。

投稿時IPアドレスの特定

YouTube動画との関係では、一段階目の手続は発信者情報開示仮処分命令の申立てか、発信者情報開示命令の申立てによって行う必要があります。

後者は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」といいます。)が令和3年に改正されたときに新設された手続であり、比較的新しい方法です。

YouTubeを運営するGoogle LLCが任意交渉に応じてIPアドレスを開示することは期待できません。

契約者情報の特定

投稿時IPアドレスが特定できれば、当該投稿時IPアドレスを使用した投稿者の契約者情報(氏名及び住所など)の開示請求に移ります。

この二段階目の手続は、基本的に、プロバイダ責任制限法の令和3年改正によって新設された開示命令の申立てによって行うことになります。

令和3年改正前は訴訟を提起するしかなく、契約者情報の開示を実現するまでに半年程度の期間を要することも少なくありませんでした。しかし、この開示命令の申立てができるようになった結果、契約者情報の開示を実現するまでの期間が相当程度短縮されています。

なお、従来どおりの開示請求訴訟と、令和3年改正後の開示命令の申立てに関しては、その使い分けに関し、総務省は次のとおりの見解を公表しています。

発信者情報開示命令(第8条)は、開示請求事案には、開示要件の判断困難性や当事者対立性の高くない事案があることを踏まえ、こうした事案に係る裁判の審理を簡易迅速に行うことができるようにするため創設されたものです。したがって、このような事案においては、発信者情報開示命令の申立てを利用することが想定されます。

他方、事前にプロバイダから強く争う姿勢を示されたケースなど、裁判所が開示命令を発したとしても異議の訴えが提起され訴訟に移行するとあらかじめ見込まれるような事案については、開示請求をする者としては、開示命令の手続を選択するとかえって審理期間が長期化する可能性があることを考慮して、開示命令手続を選択せず、発信者情報開示請求訴訟を利用することが想定されます。

総務省|プロバイダ責任制限法Q&A|問23

二段階目の手続の結果、裁判所が開示相当と判断した場合、YouTube動画を投稿した者の特定が実現されることになります。

投稿者特定方法②|非IPアドレスルート

次に、非IPアドレスルートです。

YouTubeで悪質な動画の投稿を行った投稿者を特定する方法には、非IPアドレスルートが存在します。

これは、プロバイダ責任制限法が令和3年に改正されたことによって格段に使いやすくなった方法です。

特に、YouTubeの動画投稿者が収益プログラムを利用している場合、YouTube側では基本的に当該動画投稿者の投稿時IPアドレスだけでなく、当該動画投稿者の氏名と住所を把握しています。

そのため、このような場合には、YouTubeを運営するGoogleLLCに対して直接氏名と住所の開示を請求する方法を検討すると良いでしょう。

なお、仮に動画投稿者が収益プログラムを利用していない場合でも、投稿時IPアドレスの開示を求めることしかできない訳ではありません。GoogleLLCが、何らかの理由で、動画投稿者の特定につながる情報を保有している可能性があります。このような情報の開示請求を試したい方は、インターネット問題に精通している弁護士に依頼することを検討すると良いでしょう。

共通する注意点

IPアドレスルートと非IPアドレスルートのいずれを選択するとしても、可能な限り速やかにスクリーンショット等によって適切に証拠化する必要がある点には注意が必要です。

スクリーンショットを撮影する際には、次の情報がすべて含まれているようにしましょう。

  • 動画やコメントの内容それ自体
  • 動画のタイトルとURL
  • 投稿者のプロフィールページとそのURL

なお、スマートフォンからスクリーンショットを撮影すると、URLは省略された形になってしまいます。そのため、スクリーンショットはパソコンで撮影するようにしましょう。

当事務所でも、ご相談者の方からスクリーンショットをご共有いただく機会が少なくありませんが、裁判手続を進める上では不十分な情報しか含まれていないことが多い印象です。

コメント投稿者の開示請求

ここまで、開示請求によってYouTube動画の投稿者を特定する方法をご説明してきました。

しかし、YouTubeにおいては、動画投稿者がコメントで誹謗中傷を受けるケースも少なくありません。

それでは、YouTubeのコメントで誹謗中傷を受けた場合には、どのようにしてコメント投稿者を特定すれば良いのでしょうか。

この場合の特定方法としても、IPアドレスルートと非IPアドレスルートがあり、基本的には動画投稿者特定の場合と同じです。

詳細は上記「YouTubeにおける動画投稿者の開示請求」でご説明したとおりですので、割愛いたします。コメント投稿者が運営するチャンネルが収益化されている場合には、当該コメント投稿者の氏名と住所の開示をGoogleLLCに対して請求することになるでしょう。

開示請求に要する費用

本記事では、YouTubeの動画やコメントによって誹謗中傷を受けた場合の開示請求の方法を検討してきました。

では、上記のような開示請求には、どの程度の費用が必要になるのでしょうか。

申立手数料等

YouTubeの動画やコメントの投稿者を特定するためには、上記のとおり、発信者情報開示命令の申立てなどの裁判手続が必要です。

この裁判手続にあたっては、裁判所に申立手数料を納める必要があります。

具体的には、発信者情報開示仮処分命令申立てであれば、2000円の収入印紙を購入する必要があります。

また、発信者情報開示命令の申立てであれば、1000円の収入印紙を購入する必要があります(参照:裁判所「発信者情報開示命令申立て」)。

弁護士に依頼する必要性

加えて、裁判手続に関しては、弁護士に依頼することで、適切な主張を行うことができ、投稿者特定を実現する可能性を高められるでしょう。

そこで、YouTubeの動画やコメントの投稿者特定を希望する場合、可能な限り、弁護士に対応を依頼する方が良いと思います。

そのため、開示請求にあたっては、弁護士費用も必要になるでしょう。

弁護士費用相場

では、弁護士費用はどのぐらいかかるのでしょうか。

当事務所でインターネット上に公開されている料金体系を調査した限りでは、IPアドレスの特定に関し、着手金として20万円から30万円程度報酬金としても同額程度が必要になるといえそうです。また、IPアドレス特定後に契約者情報を特定するためにも、同程度の金額が必要になると考えられます。

少なくない費用が必要になるため、弁護士に依頼する場合には、投稿者を特定できない可能性についても十分に確認した上で、意思決定を行う必要があるでしょう。

なお、「開示請求に要した弁護士費用を開示後に投稿者に請求することができるか。」が気になる方は、下記「投稿者特定後の対応(損害賠償請求や刑事告訴)」もご確認ください。

開示請求に要する期間

YouTubeでの誹謗中傷の被害に遭われている方の中には、開示請求に要する期間が気になる方もいると思います。

開示請求に要する期間は、裁判手続の中でGoogleLLC側の代理人が反論する回数等によっても変動するため、ケースバイケースで異なります。

ただ、申立日から半年程度が1つの基準になるかもしれません。

投稿者特定後の対応(損害賠償請求や刑事告訴)

YouTubeの動画やコメントの投稿者を特定した場合、次に考えられるのは、①損害賠償の請求や、②刑事告訴の手続です。

損害賠償の請求

1つ目は、損害賠償の請求です。

内容証明郵便の送付等によって裁判外で損害の賠償を請求し、投稿者が応じない場合には、損害賠償請求訴訟を提起するという流れになるのが一般的でしょう。

損害賠償請求との関係では、「どの程度の金額を損害として請求可能か。」というご質問を受けることも多いのですが、正直なところ、ケースバイケースであるため、一般的な相場観をお示しするのは非常に困難です。

自社が請求できる可能性のある損害の金額が気になる方は、投稿者特定前や特定後に、弁護士に確認されるのが良いでしょう。

また、「投稿者特定後に、投稿者に対して弁護士費用を請求できるのか。」という点につきましては、「開示請求の費用は相手に請求できるのか|弁護士費用等」に整理しましたので、ご参照いただけますと幸いです。

概要としては、「投稿者特定に要した弁護士費用の全額について、投稿者に対する請求を認めた裁判例も存在する。しかし、それが確定的な実務の運用とまではいえない。」ということになります。

とはいえ、最近でも、開示請求に要した弁護士費用全額について、投稿者に対する請求を認めた裁判例は複数存在しています。

インターネット上の電子掲示板に掲載された匿名の投稿によって名誉等を毀損された者としては、発信者情報の開示を得なければ、名誉等毀損の加害者を特定して損害賠償等の請求をすることができないのであるから、発信者情報開示請求訴訟の弁護士報酬は、その加害者に対して民事上の損害賠償請求をするために必要不可欠の費用であり、通常の損害賠償請求訴訟の弁護士費用とは異なり、特段の事情のない限り、その全額を名誉等毀損の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

東京高等裁判所令和2年1月23日・令和元年(ネ)第3668号、令和元年(ネ)第4142号

刑事告訴手続

開示実現後の対応として考えられる2つ目が、刑事告訴の手続です。

損害賠償の請求は民事責任の追及ということになりますが、刑事告訴の手続は、刑事責任の追及を行うものです。

日本では、検察官が、国家の刑事訴追機関として公訴権を独占しています(検察庁|我が国の検察制度の特色)。

したがって、YouTube上で誹謗中傷を受けたからといって、被害を受けた方が刑事訴訟を提起することはできません。

もっとも、告訴を行うことにより、捜査機関の捜査を促すことは可能です。

そこで、YouTube上で誹謗中傷を行った投稿者を特定できた場合、告訴状を作成し、当該投稿者を被告訴人とする刑事告訴を行うことが考えられます。

開示請求が難しいケース

YouTube上での誹謗中傷に関して開示請求をお考えの方は、弁護士に相談するなどして、開示請求が認められる可能性を検討すると良いでしょう。

ただ、次のような動画やコメントについては、一般論として、開示請求による投稿者特定は難しいと思われます。

  • 誰に向けられているかが分からない投稿
  • 公益性や公共性が認められる投稿
  • 投稿者の個人的な感想に過ぎないと見られる投稿
  • 投稿時から相当な時間が経過している投稿

なお、3つ目の「投稿時から相当な時間が経過している投稿」については、非IPアドレスルートであれば、相当期間経過後でも開示請求によって投稿者を特定できる可能性があります。

最後に

本記事では、当事務所の経験を踏まえ、YouTubeでの動画やコメントによって誹謗中傷を受けてお困りの方に向けて、開示請求による投稿者特定の方法や費用、期間等をご説明してきました。

本記事がYouTubeでの動画やコメントによって誹謗中傷を受けてお困りの方の参考になれば、幸いです。

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