日本における盗撮事犯の2021年の検挙件数は5019件と過去最多を記録し、10年前の2011年に比べて2倍以上となっています(毎日新聞「盗撮検挙が過去最多の5019件 スマホ普及 10年で2倍超に」)。
スマートフォンや小型カメラの普及もあり、誰でも簡単に盗撮行為ができてしまうことが1つの要因として考えられます。
そのような盗撮行為は周知のとおり犯罪行為であり、場合によっては、逮捕されることもあります。
本記事では、ご家族の方が盗撮行為を理由として逮捕された場合を例に、逮捕後の流れや、盗撮事案に対して適切に対応するためのポイント等をご紹介します。
盗撮とは?
盗撮の要件や法定刑は、刑法ではなく各都道府県が制定している「迷惑防止条例」に定められています。東京都の場合は次のとおりです。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行 為であって、次に掲げるものをしてはならない。
東京都迷惑防止条例
(1)・・・
(2)次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体 を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し 向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる ような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用 し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
更衣室等にカメラやスマートフォンを用いて「撮影」する行為はもちろん、実際に写真が撮れていなくても、スカート内を撮影する目的をもってスカート内にカメラを差し向ける行為があれば、迷惑防止条例に違反する行為として処罰の対象となります。
盗撮をした場合の法定刑・刑事罰は?
盗撮行為によって迷惑防止条例に違反すると、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県(ただし撮影行為のみ)などの場合)。
常習的に盗撮行為を行っていた場合には、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金が科されます(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県(ただし撮影行為のみ)などの場合)。
盗撮で逮捕された後の流れ
もしもご家族の方が逮捕されてしまった場合、事案が「盗撮」であるか否かにかかわらず、逮捕から裁判までの流れは次のとおりです。
逮捕されてしまったご本人は、起訴される前は、被疑者として、最長23日間の身体拘束を受ける可能性があります。
逮捕・勾留いずれの状態でも、弁護士は被疑者本人と面会することができます。
他方、逮捕されてから勾留が決定するまでの間、通常は、ご家族の面会は認められません。
以下、各手続について順に説明していきます。
1)逮捕
逮捕には、通常逮捕・緊急逮捕・現行犯逮捕の3 種類が存在します。
よくあるケースは「通常逮捕」と「現行犯逮捕」の2つです。
通常逮捕は、あらかじめ裁判所から発付された逮捕状に基づいて逮捕することをいいます。
例えば、早朝に警察官が自宅に来て、逮捕状を示した上で被疑者を逮捕するという場合です。
当然、警察から「明日の●時に逮捕しに行きます。」などといった連絡はありませんし、被疑者本人が逮捕される際に、警察官からご家族に対して必ずしも詳しい説明はありません。
「突然警察が家にやってきて、夫を連行していった。警察からは“盗撮”のようなことを言われたけど、具体的なことは何もわからない。」といったご相談をいただくことも多いです。
一方、まさに盗撮をしているところを見つかり逮捕される場合は、「現行犯逮捕」になります。
実は、現行犯逮捕は、警察官以外の一般人でも行うことができ、逮捕状も必要ありません。
よくあるのは、駅員や一般人の方が盗撮している人を捕まえ、駆けつけた警察官にその人の身柄を引き渡すケースです。
2)逮捕後48時間以内に検察官送致
警察は、逮捕後48時間以内に、事件と身柄を検察庁に送致します。この間、逮捕されてしまった被疑者本人とご家族は、通常、面会することはできません。
他方、弁護士であれば被疑者本人と面会することが可能です。
捜査機関は、この段階で被疑者本人の弁解を聴き、その内容を書面に残して証拠とします。
自白の強要や動揺して事実に反する供述をしてしまうことなどを避けるためにも、できるだけ早期に弁護士による面会を行い、取調べに関する対応の仕方等について、弁護士から被疑者本人に適切なアドバイスを行うことが重要です。
3)検察官送致後24時間以内に勾留請求
検察官は、事件の送致を受けてから24時間以内に、勾留(被疑者本人の身体を逮捕に引き続き拘束すること)が必要かどうかを判断します。
必要と判断した場合、検察官は、裁判官に対して勾留請求を行い、裁判官がこれを認めると、被疑者は勾留されます。
4)勾留は原則10日間(勾留延長は10日間以内)
勾留(逮捕に引き続く身体の拘束)は、原則として10日間です。
ただし、勾留の延長を裁判所が認めた場合、最大10日間の勾留延長が認められます。つまり、最大20日間の勾留が認められる場合があります。
この段階では、弁護士は、勾留を阻止したり、勾留延長を阻止したりするために、検察官や裁判所に働きかけます。
5)起訴
検察官は、逮捕・勾留中に行った捜査や取調べの結果を踏まえて、被疑者を起訴する必要があるか否かを判断し、起訴する必要があると判断した場合には、被疑者を起訴します。
他方、「諸般の事情から、罰するほどではない」あるいは、「この人は罪を犯していない」などと検察官が判断した場合には、起訴しないことを決定します。これを「不起訴(処分)」といいます。
「不起訴(処分)」となった場合、被疑者は釈放されます。また、「不起訴(処分)」になると、「前科」もつきません。そのような点で、起訴になるか、不起訴になるかは、被疑者にとってもご家族の方にとっても重要な意味を持ちます。
盗撮事案の場合、盗撮の対象となった方との示談交渉等、弁護士の活動によって不起訴になる可能性が高まります。
この段階までにご家族の方が何もせず放置してしまうのは、最も避けるべき対応でしょう。
6)約1か月後に刑事裁判が開始
刑事裁判では、裁判官が、有罪・無罪の判断や、有罪の場合に刑罰をどの程度にするかを決めます。なお、日本では、起訴処分を受けた場合の有罪率が「99.9%」と言われています。
また、起訴前に勾留されていた被疑者は、起訴された後も身体拘束が続くのが通常です。
この場合、起訴前の逮捕・勾留により最大23日間(勾留請求までの72時間+勾留20日間)の身体拘束を受けた後、さらに引き続き刑事裁判で判決が出るまで身体を拘束され続けることになります。
この段階では、弁護士は、裁判でこちらの主張・立証を適切に行うための準備をしながら、必要に応じて保釈請求(被告人を釈放するよう求めること)を行います。
7)判決
刑事裁判の判決は、審理が終わってから数週間で言い渡されます。
被告人が起訴された事実をすべて認めている場合には、刑事裁判の審理は1回で終わることが多いですが、被告人が起訴された事実を否認していたり、事案が複雑な場合などは、審理が複数回に渡り行われることもありますので、判決が出るまでの期間は事案によって異なります。
盗撮事案で特に重要となるポイント
1)盗撮行為を行った場所・方法・撮影内容・回数・期間等の具体的な事情
まずは、逮捕されてしまった本人と弁護士がいち早く面会を行い、盗撮を疑われる行為を行った覚えがあるのか、あるとして、いつどこでどのように行った行為なのかという事情を詳しく聞く必要があります。これが刑事弁護の出発点です。
ご本人の口から詳しくお話を聴く中で、本人に有利な証拠の所在や、事案の法的な問題点が見えてきます。
特に、盗撮行為を行った場所・方法・撮影した内容・回数・期間等は、検察官による処分や刑事罰の重さにも関わってきますので、できるだけ正確に把握する必要があります。
2)盗撮行為を疑われた行為が、本当に条文に該当する違法な行為なのか
ご本人から詳しくお話を聴くことで、そもそも盗撮行為に該当しない、ケースであることが判明することもあり得ます。その場合は、犯罪行為が成立しない(無罪である)との主張をすることも考えられます。
3)盗撮被害を受けた方との間で示談がなされたか否か
盗撮行為があった場合には、起訴・不起訴の判断に影響を与える事項として、盗撮被害を受けた方との「示談」の有無が挙げられます。
通常、加害者と被害者とが直接示談交渉することは困難です。
特に、盗撮事案の場合、被害者は、「加害者と直接関わりたくない」と考えることが多いですから、示談交渉を行う場合には弁護士に依頼した方が良いでしょう。
最後に
本記事では、ご家族の方が盗撮の容疑で逮捕されてしまったという盗撮の事案を例に、逮捕から裁判までの流れや、盗撮事案を解決に導くために重要となるポイントについてご説明しました。
当事務所では、盗撮事案については数多く取り扱っておりますし、その他の刑事弁護にも対応しております。
ご家族の方が盗撮の疑いで逮捕されてしまった、あるいはご自身が盗撮を疑われていて悩んでいるという方は、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。