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ファイル共有ソフトと著作権侵害の関係を弁護士が解説。違法となった場合の法的責任とは?

当事務所では、ファイル共有ソフトを利用したことが原因で、「『発信者情報開示に係る意見照会書』が届いたので対応を相談したい。」といったご相談を多くいただいております。

本記事では、その中でも、「著作権侵害」を理由とする発信者情報開示請求や損害賠償請求をされてお困りの方のために、「ファイル共有ソフトと著作権侵害」をテーマとして解説します。

なお、当事務所では、著作権のほか、肖像権やパブリシティ権等を侵害してしまった可能性のあるケースについても多くのご相談をいただいております。このような権利を侵害したとして発信者情報開示請求を受けた方は、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

※ 発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合の一般的な対応方法については「発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合に開示を拒否して良いか」もご参照ください。

1 ファイル共有ソフトとは

ファイル共有ソフトとは、インターネットを利用して不特定多数のユーザーとファイルをやり取りするためのソフトウェアのことです。

ファイル共有ソフトの仕組みは各ソフトウェアによって異なる点もありますが、多くはファイルのやり取りをクライアントどうしで行うP2P(Peer to Peer-ピア・トゥー・ピア)方式が採用されています。

例えば、「BitTorrent(ビットトレント)」「µTorrent(ミュートレント・マイクロトレント)」などがこれに当たります。

2 著作権とは

そもそも「著作権」が何かということをみておきましょう。

著作権は、著作物を保護するための権利であり、複製権・上演権・公衆送信権・送信可能化権等の個別の権利(支分権)の総称です。

ここでいう「著作物」とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法第2条第1項第1号)。

少し難しい定義ではありますが、皆さんが日常的に触れることの多い、アーティストの音楽作品や、俳優さんが出演している映画やドラマのような映像作品、アニメやゲーム等は「著作物」であり、当然に著作権が認められます。

そのような著作物を、許可なくインターネット上にアップロードしたり、事業に利用したりすると、著作権侵害となります。

3 ファイル共有ソフトの利用が著作権侵害になる理由

では、ファイル共有ソフトを利用することが、なぜ著作権侵害につながるのでしょうか。

それは、ファイル共有ソフトを利用することで、気づかぬうちに著作物のアップロードに加担してしまうことがあるからです。

ファイル共有ソフトで著作物をダウンロードしたことがある方の中には、

「自分はファイルをダウンロードしているのであって、ファイルをアップロードしているわけではないから問題ない。」と考えている方もいるかもしれません。

しかし、冒頭でご紹介したP2P方式のファイル共有ソフトでは、ダウンロードのスピードを上げるために、利用者がファイルをダウンロードする際に、同時に、自分の入手しているファイルの断片を(他の利用者のために)アップロードするという仕組みがとられることがあります。

この仕組みにより、ファイルをダウンロードしている際に、同時にファイルをアップロードしてしまっているという状況が生じます。言い換えれば、その権利がないのに、広く第三者に著作物を提供することに加担したことになってしまうのです。

その結果、ファイル共有ソフトを利用したファイルのダウンロードに伴って、著作権の1つである「公衆送信権」や「送信可能化権」を侵害することになります。

※ なお、近年の著作権法改正により、ファイルのダウンロード自体が著作権侵害を構成する可能性もあるので、その点も併せてご注意ください。

4 ファイル共有ソフトを利用して著作権を侵害した場合に負う法的責任

(1)刑事責任

著作権法には、著作権侵害をした場合の刑事罰が規定されています。

つまり、著作権法に違反する行為は犯罪行為となる可能性があり、刑事処分を受けることになれば、前科がついてしまうことになります。

具体的には、著作物を不正にアップロードするなどして著作権を侵害した場合、10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金に処され、又はこれらが併科されます(著作権法第119条第1項)。

また、違法にアップロードされた著作物であることを知りながら著作物をダウンロードした場合、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処され、又はこれらの刑が併科されます(著作権法第119条第3項)。

ケースによっては、上記の著作権侵害を理由に逮捕・勾留される(捜査機関による身体拘束を受ける)こともあります。

(2)民事上の責任

ファイル共有ソフトを利用したことにより、著作権者に損害が発生した場合、刑事責任とは別に、損害賠償責任等の民事上の責任を負うことがあります。

仮に、裁判手続によって損害賠償責任が認められた場合、認定された金額を著作権者に支払わなければなりません。

5 著作権侵害と損害賠償責任の関係

著作権侵害により民事上の責任が生じ得ると説明しましたが、他人の著作権を侵害してしまった場合でも、そのことから直ちに損害賠償責任を負うわけではありません。

損害賠償責任が認められるためには、権利侵害(著作権侵害)のほかに、次のような要件を充足する必要があるからです。

  • 行為者の故意または過失
  • 行為者の行為と権利侵害との因果関係
  • 損害の発生
  • 権利侵害と損害の発生との因果関係

※ 損害賠償請求の要件論については、学説によって様々な見解がありますが、この記事では見解の対立等に関する詳細な検討は省略します。

もし、ファイル共有ソフトを利用して著作権を侵害してしまった場合、著作権者は上記の内容を主張・立証することになります。

なお、過去の裁判例等を踏まえると、ファイル共有ソフトを利用してファイルをアップロードしてしまった場合には、基本的に、著作権を侵害したことについての故意または過失が認められてしまうものと考えられます。

もっとも、原告が請求している損害額の算定根拠が不合理であり、過大な請求がなされている場合には、被告側(損害賠償請求を受けている側)の代理人弁護士がその旨を指摘し、認められる損害が適切な金額になるように弁護活動を行います。このことは、訴訟であっても、訴訟に至る前の交渉の段階でも同様です。

ファイル共有ソフトと損害賠償請求に関係については、下記の記事でも詳しく解説しています。

ファイル共有ソフトの利用と損害賠償請求について

6 ファイル共有ソフトを利用して著作権侵害となった事例(裁判例)

裁判例

被告が、Bittorrent(ビットトレント)を利用してアダルト動画をダウンロード(と同時にアップロード)したことにより、著作権者であるAV制作メーカーから著作権侵害を理由とする損害賠償請求をされた事例。結論として、裁判所は著作権侵害を認め、Bittorrent(ビットトレント)の利用者の一部に1万5906円~5万9892円の損害賠償責任を認めた。

知的財産高等裁判所令和4年4月20日

なお、この判決では、「著作物である動画のダウンロードまたはストリーミング形式での販売価格 × 著作者の売上(利益)率 × ビットトレント利用期間中のダウンロード回数」という計算方法によって損害額が算出されています。

したがって、この判決で認められている損害額は比較的低額ですが、行為者がアップロードした著作物の数や、著作物がダウンロードされた数によって損害額は大きく変化し得る点には注意が必要です。

例えば、BitTorrent(ビットトレント)を使いアニメの動画を違法に公開したことで、大阪府警サイバー犯罪対策課などが被疑者を逮捕した事例では、被害額が約18億円となることで話題となりました。

7 ファイル共有ソフトと著作権に関わるご相談例

当事務所の弁護士によくご相談いただくのは、以下のようなケースです。

(1)プロバイダ事業者から発信者情報開示に係る意見照会書が届くケース

Example

Aさんは、ファイル共有ソフト(ビットトレント等)を利用して、本来、購入して視聴すべき動画を無料でダウンロードした。

すると、ある日突然、Aさんが契約しているプロバイダから、Aさん宛に「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた。意見照会書の内容を読むと、

「Aさんは違法なアップロードを行って著作権侵害を行った」
「著作権侵害行為により損害が発生した」
「損害賠償請求をするために、発信者情報の開示を求める」

といったことが記載されていた。

つまり、著作権者は、ファイル共有ソフトの利用者に対して損害賠償請求(あるいは刑事告訴)をしようとしており、そのために必要となる利用者の氏名・住所を特定しようとしている、ということになります。

このような通知に対しては、迅速かつ適切に対応する必要があります。

安易に開示を拒否したり、回答が遅れてしまうと、プロバイダ側の判断で個人情報が開示されてしまったり、突然訴訟に巻き込まれたりする可能性があります。

そのようなリスクを減らすためにも、同様の事案を多く扱っている弁護士に相談することをおすすめします。

ファイル共有ソフトを利用したことが理由で発信者情報開示請求を受けてしまった方は、具体的な対応方法等について解説した下記の記事も併せてご覧ください。

ファイル共有ソフトを利用して発信者情報開示請求を受けたら

(2)著作権者から損害賠償を請求されるケース

Example

Aさんは、ファイル共有ソフト(ビットトレント等)を利用して、本来、購入して視聴すべき動画を無料でダウンロードした。

すでに著作権者はAさんの氏名・住所を特定しており、発生した損害として数百万円の支払いを請求してきた。

著作権者側が、すでにファイル共有ソフトの利用者を特定している場合には、当該利用者に対して、損害賠償請求をしてくる可能性があります。

中には、訴訟で認められると予想される金額よりも相当高額な金銭の支払いを請求してくる場合もあるので注意が必要です。「自身のケースではどれくらいの金銭を支払うのが妥当であるのか」といった点も含め、疑問や不安を感じたことについては弁護士に相談することをおすすめします。

8 最後に

本記事では、ファイル共有ソフトの利用と著作権侵害の関係や、具体的な事例・ご相談例等をご紹介しました。

当事務所でも、著作権侵害を理由とするものに限らず、「発信者情報開示に係る意見照会書」を受け取った方に対する回答書の書き方のアドバイスや、示談交渉活動を行っております。お困りの方は、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

※ 現在、当事務所では、ファイル共有ソフトを利用して著作権等を侵害してしまった方からのメールでのお問い合わせについて、土日祝日も受け付けております。発信者情報開示に係る意見照会書への回答等に悩まれている方はお気軽にご相談ください。

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