刑事事件において「示談」は重要な意味を持ちます。
しかし、「示談をすれば必ず不起訴になる。」あるいは「示談をすれば必ず刑が軽くなる。」というわけではありません。
本記事では、刑事事件における「示談」の正しい意味や効果について、弁護士がわかりやすく解説します。
示談とは
示談とは、民事上の紛争に関し、裁判所を介入させず、当事者間の合意によって解決することです。
そもそも「示談」という言葉は、刑法や民法に明記されているわけではありません。「示談」は、法的に(民法上)は、「和解契約」に位置付けられます。
また、示談を成立させるために話し合いを行うことを示談交渉といいます。通常、刑事事件においては、加害者側から被害者側に対して、示談交渉を持ちかけます。
無事に示談が成立した場合、その内容を書面に記載し、当事者やその代理人が署名・押印するのが一般的です。
示談金とは
示談金とは、示談の際に加害者から被害者に支払われる金銭のことです。
刑事事件において示談をする場合は、加害者から被害者に対して数万円~数十万円の示談金が支払われることが多いでしょう。
もっとも、示談金の具体的な金額はケースバイケースです。
示談書の具体例
示談書の作成は義務ではありません。
しかし、口頭で約束するのみで示談書を作成しなかった場合、後になって何の名目で金銭を支払ったのか双方の言い分が食い違うなど、トラブルの原因となってしまいます。
示談をするときは、必ず書面化しておきましょう。
示談書を具体的にイメージできるよう、示談書の例を記載します。
※ あくまでイメージするための例であり、本記載をあらゆる事案に流用できるわけではありませんのでご注意ください。
示談にどのような内容を盛り込むのか、また、具体的にどのような文言を用いるのかはケースバイケースです。あらゆる事案の示談を、まったく共通の内容や書式で行うわけではありません。
示談の法的な効力
先に述べたとおり、示談は民法上の和解契約(民法第695条)に位置付けられます。
和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。
民法第695条
和解契約は当事者双方を法的に拘束するものですから、当事者はその内容を守らなければなりません。
例えば、「AさんがBさんに示談金として金30万円を支払う」という内容が記載されているのであれば、AさんはBさんに対して30万円の金銭を支払う債務(義務)を負います。
他方で、法的に拘束されるのは、あくまで示談を締結した「当事者双方」に限られます。
例えば、「AさんはBさんが起訴されることを求めない」という内容を示談書に記載したとします。
この場合でも、検察官はBさんを起訴することができます。AさんとBさんが交わした約束は、当事者ではない検察官を拘束するものではないからです。
ただし、検察官は、「AさんはBさんが起訴されることを求めない」という内容の示談書が締結されたことも考慮した上で、Bさんを起訴するか否かを決定します。
示談をすれば不起訴になる?
依頼者の方やそのご家族の方から、「示談すれば必ず不起訴になるのか」といったご質問を受けることがあります。
冒頭でも述べたとおり、示談が成立したからといって「必ず」不起訴になるわけではありません。そのような法律やルールは存在せず、検察官には、諸般の事情を考慮して起訴・不起訴を決定する権限があるからです。
したがって、「示談が成立したものの、起訴された」というケースも存在します。もっとも、一般論として、示談が成立していない事案よりも、示談が成立している 事案の方が不起訴になる可能性は高まります。
示談をすれば刑が軽くなる?
起訴・不起訴に関するご質問と同様に、「示談すれば刑が軽くなるのか」といったご質問を受けることもあります。
こちらのご質問への回答も、起訴・不起訴に関するご質問と同様です。
示談が成立したからといって「必ず」刑が軽くなるわけではありませんが、一般論として、示談が成立していない事案よりも、示談が成立している事案の方が、刑が軽くなる可能性は高まります。
示談金の相場は?いくら必要?
「示談金の相場はどれくらいでしょうか。」「示談金はいくら必要でしょうか。」というご質問もよくいただきます。金銭的な問題ですから、ご不安に思われるのも当然です。
前提として、示談金はいくらにすべき、という決まりはありません。
当事者間が自由に行う「和解契約」ですから、基本的には当事者双方が納得した金額であれば良いのです。
もっとも、犯罪の種類や行為の内容によって、「大体これくらいの金額で示談するケースが多い」という意味での相場は存在します。
仮に、被害者の方が、相場から大きくかけ離れた金額を要求してきた場合には、その旨を記録し、弁護人から検察官に事情を伝えることもあります。
示談ができなかった場合はどうなる?
当然、被害者の方が示談交渉に応じないこともあり得ます。また、示談交渉は開始したものの、示談金の金額等の内容面で折り合いがつかず、示談が決裂してしまうこともあります。
そのような場合、なんとか示談を成立させたくても、強制的に示談を成立させることはできません。示談はあくまでも当事者間の自由な意思に基づく契約の一種だからです。
他方で、示談ができなかった場合に、加害者側がとり得る手段が何もないわけではありあません。
例えば、次のような方法が考えられます。
- 加害者が自身の行為を反省し、示談金を支払う意思を示したものの、被害者の方に示談を拒否されてしまったという経緯を書面化する
- 供託による方法で被害弁償を行う
- 贖罪寄付を行うことで反省の意を示す などの方法が考えられます。
もっとも「上記の行為にどれ程の効果があるのか。」あるいは「どの方法をとるべきか。」は、事案によっても異なりますので、弁護士とよく相談して決定しましょう。
示談交渉は自分でできる?弁護士を使うメリットは?
示談交渉は自身で行うこともできますが、弁護人を通じて行うことをおすすめします。
そもそも、多くの事案では、加害者本人が被害者の方の連絡先を入手することが困難です。この場合、弁護人によらず示談交渉を開始することは難しいでしょう。
また、仮に被害者の方の連絡先を知ることができたとしても、「加害者とは直接連絡をとりたくない。」と考える被害者の方も多く、直接の連絡には慎重さが求められます。 安易に直接連絡してしまったことをきっかけに、かえって被害者の方の心情を害するなど、トラブルの原因となることもあり得ます。
他方で、「加害者と直接連絡はとりたくないが、弁護士であれば話しても良い。」との考えで、示談交渉に応じてくれる被害者の方は多くいらっしゃいます。このようなメリットから、示談交渉は弁護人を通じて行うことをおすすめします。
なお、弁護士は、当然ですが、被害者の方に対して高圧的に接するわけではありません。第三者としての立場をも有する専門家として、ときには被害者の方が抱いている懸念点や疑問点などを解消しつつ、示談交渉を進めていきます。
最後に
本記事では、刑事事件における「示談」の正しい意味や効果についてご説明しました。被害者の方が存在する事件で、かつ、被疑事実に争いがない事案においては、できる限り早期に示談をすることが重要です。
ご家族の方が逮捕されてしまった、あるいはご自身が刑事事件を起こしてしまったなど、お悩みの方はできるだけ早いタイミングで弁護士に相談されてください。
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