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パブリシティ権侵害を理由とする発信者情報開示請求や損害賠償請求をされたら

当事務所では、「発信者情報開示に係る意見照会書』が届いたので対応を相談したい。」といったご相談を多くいただいております。

本記事では、その中でも、「パブリシティ権侵害」を理由とする発信者情報開示請求や損害賠償請求によってお困りの方のために、「パブリシティ権」の意義や「パブリシティ権」に関する判例をご紹介した上で、特に発信者情報開示請求に係る意見照会書に対してどのように対応すべきかをご説明します。

なお、本記事では、ファイル共有ソフトの利用によってパブリシティ権を侵害してしまった可能性のあるケースを中心にご説明しておりますが、当事務所では、著作権(公衆送信権を含みます。)肖像権等を侵害してしまった可能性のあるケースについても、多くのご相談をいただいております。このような権利を侵害してしまった可能性のある方は、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

※ 発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合の一般的な対応方法については「発信者情報開示に係る意見照会書が届いた場合に開示を拒否して良いか」もご参照ください。

パブリシティ権とは

パブリシティ権とは、芸能人やスポーツ選手等の氏名や肖像が経済的価値を有する場合に、その芸能人等が氏名や肖像の経済的価値をコントロールする権利のことです。

日本の法律で「パブリシティ権」について直接定めた規定が存在するわけではありません。しかし、判例上確立された権利として、法律上保護されます。したがって、パブリシティ権は、損害賠償請求や発信者情報開示請求の根拠となり得ます。

パブリシティ権を保護する必要性

人気の芸能人やスポーツ選手等が持っている「良いイメージ」は、商品を販売する際の広告に利用したり、グッズとして販売したりすると、顧客を引き付けるために大きな力を発揮します。

芸能人やスポーツ選手等からすれば、自身の氏名や肖像そのものに経済的な価値があるのですから、その価値を自身でコントロールしたいと思うのは当然です。自身が許可を与えていないところで、勝手に肖像等を広告に使われてしまったり、グッズが販売されてしまったりするのでは、自身の経済的価値を勝手に奪われているようなものだからです。

このような経済的利益を保護するために、「パブリシティ権」という考え方が生まれました。

パブリシティ権の存在を認めた判例

パブリシティ権の存在を認めた判例として挙げられるのは、1970年代を代表するアーティスト「ピンクレディー」の2名が原告となった判例です(最高裁平成24年2月2日判決)。

裁判所は、まず次のように判示しています。

人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解される。

最高裁平成24年2月2日判決

次に、以下のように述べてパブリシティ権の存在を認めています。

肖像等は、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合があり、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利(以下「パブリシティ権」という。)は、肖像等それ自体の商業的価値に基づくものであるから、上記の人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができる。

最高裁平成24年2月2日判決

その上で、パブリシティ権侵害が不法行為法上違法になる場面について、次のように述べています。

肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。

最高裁平成24年2月2日判決

パブリシティ権侵害が認められるための要件

上記判決によれば、パブリシティ権侵害が認められるためには、次の2つの要件を充足することが必要と考えられます。

  • 肖像等を無断で使用していること
  • 専ら肖像等の有する顧客の吸引力の利用を目的としていること

また、上記判決によれば「専ら肖像等の有する顧客の吸引力の利用を目的」とする例として、以下の3つのパターンが挙げられます。

  1. ①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する
  2. ②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す
  3. ③肖像等を商品等の広告として使用する

ファイル共有ソフトの利用を通じたパブリシティ権侵害を主張された事例

上記のようなパブリシティ権の意義やパブリシティ権に関する判例の存在を踏まえると、BitTorrentなどのファイル共有ソフトの利用を通じたパブリシティ権侵害を主張された場合には、どのように対応すれば良いのでしょうか。

具体的な事例

よくご相談いただくのは、以下のようなケースです。

Example

Aさんは、ファイル共有ソフトを利用して、本来、購入して視聴すべき動画等をダウンロードした。

すると、ある日突然、Aさんが契約しているプロバイダから、Aさん宛に「発信者情報開示に係る意見照会書」が届いた。

意見照会書の内容を読むと、「Aさんは違法なアップロードを行った」「Aさんが所属タレントのパブリシティ権を侵害した」「損害賠償請求をするために、発信者情報の開示を求める」といったことが記載されていた。

ファイル共有ソフトの危険性

ファイル共有ソフトについて理解しておくべきなのは、自身が気付かないうちに、ファイルのダウンロードに伴って「ファイルのアップロード」をも行っていることがあるという点です。

BitTorrent (ビットトレント)など、Peer to Peer方式(P2P方式)を採用しているファイル共有ソフトでは、ダウンロードのスピードを上げるために、利用者がとあるファイルをダウンロードすると、自身の入手しているファイルの断片を(他の利用者のために)アップロードするという仕組みがとられることがあります。

したがって、「自分はファイルをアップロードしているわけではなくてダウンロードしているだけだから問題ない。」と考えていても、気付かぬうちに違法なアップロードに加担している場合があります。

※ なお、近年の著作権法改正により、ファイルのダウンロード自体が著作権侵害を構成する可能性もある点、ご注意ください。

対応方法

もちろん、事案によって最善の対応方法は異なりますが、ご相談いただいた事案について、ご相談者様のお話をうかがい、弁護士が過去の判例等と照らし合わせて検討すると、「この事案でパブリシティ権侵害が認められる可能性は低いだろう」と感じるケースも少なくありません。

したがって、事案によっては、意見照会書への回答の中で、上記判決を引用するなどして適切に理由を記載した上で開示を「拒否」するのも1つの手段となるでしょう。

ただし、すべてのケースで「開示拒否」という対応がベストであるとは言い切れません。

相手方が主張している内容がパブリシティ権侵害のみなのか、複数の権利侵害を主張しているのか、あるいは、具体的な事実関係に照らしてパブリシティ権侵害が認められる可能性がどの程度あるのかなど、慎重に検討する必要があります。

安易に開示を拒否したり、回答が遅れてしまうと、プロバイダ側の判断で個人情報が開示されてしまったり、突然訴訟に巻き込まれたりする可能性があります。

したがって、このような事例に多く対応している弁護士に相談することをおすすめします。

パブリシティ権侵害が認められる可能性が低いケースであっても、意見照会書への回答内容などによっては、プロバイダの判断によって開示請求者に発信者情報が開示されてしまう可能性も否定することはできません。その意味でも、意見照会書への回答方法について、一度弁護士に相談することをおすすめします。

最後に

本記事では、パブリシティ権の内容や判例、具体的な事例等をご紹介しました。

当事務所でも、パブリシティ権侵害を理由とするものに限らず、「発信者情報開示に係る意見照会書」を受け取った方に対する回答書の書き方のアドバイスや、示談交渉活動を行っておりますので、こちらのお問い合わせフォームから、お気軽にご相談ください。

※ 現在、当事務所では、ファイル共有ソフトを利用して著作権等を侵害したと主張されている方からのメールでのお問い合わせについて、土日祝日も受け付けております。発信者情報開示に係る意見照会書への回答等に悩まれている方はお気軽にご相談ください。

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