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開示請求の費用は相手に請求できるのか|弁護士費用等

匿名掲示板やSNSなどで悪質な投稿の被害に遭ってしまった場合、投稿を行った投稿者を発信者情報開示請求によって特定した上で、当該投稿者に対して損害賠償等を請求することが考えられます。

このような流れで発信者情報開示請求や損害賠償請求等を行う場合、決して低くはない金額の弁護士費用等がかかってしまうのが通常です。

それでは、このような開示請求等に要した弁護士費用等を損害賠償請求の相手方(投稿者)に対して請求することはできるのでしょうか。

当事務所では、これまで多くの依頼者の方の開示請求等をお手伝いしてきた中で、このようなご質問を受けることが少なくありませんでした。

本記事では、このような開示請求等に要した費用の相手方への請求可能性についてご説明します。

不法行為の損害賠償請求と弁護士費用

匿名掲示板やSNSにおける悪質な投稿によって権利が侵害された場合には、不法行為を理由とした損害賠償請求を行うことができます。

昭和44年2月27日付の最高裁判決では、不法行為を理由とする損害賠償請求に関しては「事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内のもの」であれば、弁護士費用についても相手方に請求できるとされています。

そして、一般には、弁護士費用を除いた請求認容額の10%程度であれば、弁護士費用として相手方に請求できる余地があると考えられています。

※ 菱田昌義弁護士の「弁護士費用賠償の法理〜判例群からの類型論的考察〜」(自由と正義2021年12月号48頁)においては、昭和44年2月27日付の最高裁判決の調査官解説で引用された論文が、このような10%程度を弁護士費用相当の損害として認める運用が定着する契機になったと推察されています。

したがって、インターネット上の名誉毀損等を理由とする投稿者への損害賠償請求においても、請求認容額の10%程度であれば、通常は、弁護士費用を相手方(投稿者)に請求できるでしょう。

開示請求に関する弁護士費用等の相手に対する請求

しかし、インターネット上の名誉毀損等を理由として損害賠償請求を行う場合には、損害賠償請求の認容額の10%程度では、開示請求等に要した弁護士費用を十分に補填できない可能性が低くありません。

インターネット上で悪質な投稿を行った投稿者を特定するためには、①IPアドレスの開示請求②契約者情報の開示請求の2段階の手続が必要になります。このような2段階の手続を行っていくためには、やはり一定額の弁護士費用がかかってしまいます。

それでは、損害賠償請求の場面において、このような開示請求等に要した弁護士費用を追加的に相手に請求する余地はないのでしょうか。

開示請求に要した弁護士費用全額の請求を認めた事例

この点に関して参考になるのは、平成29年3月の東京地方裁判所の裁判例です。この裁判例では、次のような判断がなされています。

インターネット上のサイトへの匿名の投稿により名誉毀損等がされた場合に、その発信者を特定するための調査には、一般に発信者情報開示請求の方法を取る必要があるところ、この手続で有効に発信者情報を取得するためには、短期間のうちに必要な本件全処分を行った上で適切に訴訟を行うなどの専門的知識が必要であり、被害者自身で手続を行うことは通常困難であるから、被告者が発信者情報開示請求の代理を弁護士に委任し、その費用を支払った場合には、社会通念上相当な範囲で、それを名誉毀損等と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

このような判断を行った上で、上記裁判例では、次の2つの弁護士費用を含む合計64万8000円を損害として賠償請求することを認めました。

  • 発信者情報開示仮処分の弁護士費用
  • 発信者情報開示訴訟の弁護士費用

この裁判例によれば、インターネット上の名誉毀損等を理由とする損害賠償請求の場面においては、上記のような①IPアドレスの開示請求②契約者情報の開示請求の2段階の手続に必要になった弁護士費用の全額を相手(投稿者)に請求する余地があります。

開示請求に要した弁護士費用の一部の請求を認めた事例

しかし、このような裁判例の存在から直ちに「開示請求のために支出した弁護士費用はいつでも相手方に請求できる」と断定することができない点には注意が必要です。

まず、上記裁判例の後に、平成31年には、東京高等裁判所において、調査費用の1割程度のみを請求対象として認めた裁判例も存在します。

また、上記裁判例においても、一般論としては、開示請求に要した弁護士費用の全額ではなく、あくまでも「社会通念上相当な範囲」が損害賠償の対象になると判断されているに過ぎません。

これからインターネット上で悪質な投稿を行う投稿者に対して開示請求や損害賠償請求を行うことを検討されている方は、開示請求に要した弁護士費用について、次のように理解しておくのが良いでしょう。

考え方

開示請求に要した弁護士費用は、必ずしも全額を相手方(投稿者)に請求できるものではないが、開示請求に関する事情(たとえば開示請求に係る法的手続の必要性、弁護士費用の額などが挙げられます。)によっては、その全額又は一部を相手(投稿者)に請求できる可能性もある。

最後に

インターネット上の悪質な投稿による被害に遭ってしまった場合には、投稿者に対する損害賠償請求に先立って、①IPアドレスの開示請求や②契約者情報の開示請求を行う必要があります。

したがって、投稿者に対する損害賠償請求に際しては、開示請求に要した弁護士費用も相手方に請求することを希望される方も多いかと思います。

本記事で記載してきたとおり、必ずしも開示請求に要した弁護士費用の全額を相手方に請求できるというものではないと考えられます。

しかし、開示請求に関する具体的な事情を丁寧に主張することで、開示請求に要した弁護士費用の全部又は一部を相手方に請求できる可能性も低くはありません。

インターネット上の悪質な投稿による被害に遭われた方で、開示請求に要する弁護士費用を懸念されている方は、この点も踏まえて開示請求されるか否かを検討されてみてはいかがでしょうか。

本記事が、インターネット上の悪質な投稿による被害に遭われた方の参考となることを願っています。

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