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開示請求は費用倒れになってしまうのか?|弁護士費用の投稿者負担等

匿名掲示板やSNSなどで誹謗中傷を受けたとき、開示請求によって投稿者を特定するには、どのぐらいの費用がかかるのでしょうか。費用倒れになってしまう可能性はあるのでしょうか。

この記事では、匿名掲示板等で誹謗中傷を受けた場合に、開示請求によって投稿者を特定するために必要となる費用や、その費用を投稿者に請求できる可能性をご説明します。

なお、この記事では、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律を「プロバイダ責任制限法」と略します。

開示請求の方法と費用

開示請求によって投稿者を特定するための方法は、概ね次のように分けられます。

  • 裁判手続単独利用型
  • 裁判外交渉・裁判手続併用型

裁判手続単独利用型

まずは、すべて裁判手続によって投稿者を特定する方法です。

次のようなウェブサイトは、基本的にはこの方法で投稿者を特定することになります。

  • Googleマップ
  • YouTube
  • X(旧Twitter)
  • 雑談たぬき
  • V系初代たぬき
  • 転職会議

この方法では、①IPアドレスの開示請求と②契約者情報(氏名・住所)の開示請求を、いずれも裁判手続で進めることになります。

すべて裁判手続で投稿者を特定するためには、弁護士費用の総額が50万円から80万円程度になることが多いでしょう。

プロバイダ責任制限法の改正法が2022年から施行されたことにより、現在では提供命令という制度を利用することができます。また、IPアドレスの開示請求を必要としない「非IPアドレスルート」も利用が比較的容易となりました。

もっとも、これによって弁護士費用を抑えられる可能性もあるものの、それほど大きくは変わらないという印象です。

なお、GoogleマップやYouTubeなどの媒体における開示請求の方法等については、当事務所の次の記事もご参照ください。

裁判外交渉・裁判手続併用型

上記のように開示請求の全ての過程で裁判手続が基本的に必要になるウェブサイトがある一方、裁判外交渉と裁判手続を併用して開示請求を進められるウェブサイトもあります。

たとえば、次のような掲示板です。

  • 爆サイ
  • 5ちゃんねる

この方法では、①IPアドレスの開示請求は裁判外交渉の形で進め、②契約者情報(氏名・住所)の開示請求を裁判手続で進めることになります。

IPアドレスの開示請求を裁判外交渉で進められるため、開示請求に必要となる弁護士費用を抑えられます。その場合、弁護士費用の総額は、30万円から60万円程度になると考えられます。

費用倒れの可能性と賠償金の金額

開示請求によって投稿者を特定するためには、上記のとおり、低くはない金額の弁護士費用が必要になります。

「これだけの支出が必要になってしまうのであれば、費用倒れに終わる可能性も高いのではないか。」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。

それでは、開示請求に必要となる弁護士費用を上回る金額の賠償金を投稿者から回収することはできるのでしょうか。

慰謝料(精神的損害)の金額

投稿者から回収できる賠償金に含まれるものとして、慰謝料(精神的損害)が挙げられます。

慰謝料の金額は、誹謗中傷の内容や、誹謗中傷によって侵害されている権利の内容等によってケースバイケースで異なります。

しかし、日本の裁判所が認める慰謝料(精神的損害)の金額は、それほど高いものではありません。

一般論としては、慰謝料の金額だけで開示請求に要した弁護士費用を回収するのは難しいでしょう。

逸失利益の請求可能性

次に、誹謗中傷の内容によっては、「誹謗中傷がなければ得られた利益(逸失利益)」を主張する余地もあります。

特にGoogleマップや転職会議等において、営業妨害のクチコミを投稿されたような場合には、この逸失利益を主張することが考えられるでしょう。

しかしながら、そのような損害と誹謗中傷との因果関係を立証することは、容易ではありません。

誹謗中傷がなければ今回の損害が生じることはなかった」という条件関係を立証すること自体が難しいとともに、このような条件関係を立証できたとしても、それだけで因果関係を立証したことにならないのが日本の裁判実務です。

したがって、一般論としては、開示請求に要した弁護士費用を逸失利益によって投稿者から回収できる可能性も、高いものではありません。

弁護士費用の請求可能性

慰謝料や逸失利益とは別に、開示請求のために要した弁護士費用の賠償を求めることも考えられます。

誹謗中傷がなければ開示請求の必要性がなかったことは明らかであり、開示請求に要した費用の賠償を求めること自体は、至極自然なものです。

この主張については、過去の裁判例上、認められた例が複数存在します。

最近でも、開示請求に要した弁護士費用全額について、投稿者に対する請求を認めた裁判例は複数存在しています。

インターネット上の電子掲示板に掲載された匿名の投稿によって名誉等を毀損された者としては、発信者情報の開示を得なければ、名誉等毀損の加害者を特定して損害賠償等の請求をすることができないのであるから、発信者情報開示請求訴訟の弁護士報酬は、その加害者に対して民事上の損害賠償請求をするために必要不可欠の費用であり、通常の損害賠償請求訴訟の弁護士費用とは異なり、特段の事情のない限り、その全額を名誉等毀損の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

東京高等裁判所令和2年1月23日・令和元年(ネ)第3668号、令和元年(ネ)第4142号

弁護士費用の投稿者負担の可能性については、当事務所の次の記事もご参照ください。

小括

以上より、開示請求に必要となる弁護士費用については、慰謝料(や場合によっては逸失利益)を主張しつつ、開示請求に要した弁護士費用の賠償を求めることにより、当該費用相当額を投稿者から回収できる可能性もあると評価できるでしょう。

ただ、上記のとおり、日本の裁判所が認める慰謝料の金額は一般論としては高くはありません。

そのため、特に損害賠償請求訴訟が必要になる場合、開示請求に要した弁護士費用の全額を損害とは認めない旨の見解を有する裁判官が担当裁判官となったときは、回収が難しくなる可能性も十分ある点には、注意が必要です。

最後に

この記事では、「開示請求は費用倒れになってしまうのか?|弁護士費用の投稿者負担等」と題し、誹謗中傷を受けた場合の開示請求につき、開示請求に要する弁護士費用の相場や、その弁護士費用を投稿者に請求できる可能性について、ご説明しました。

開示請求をしても、費用倒れになってしまうのではないか。」と懸念される方は少なくありません。

しかし、この記事でご説明したとおり、開示請求をしても、費用倒れには終わらず、開示請求に要した弁護士費用の全額を投稿者に請求できる可能性があります。

誹謗中傷を受けて開示請求をお考えの方は、当事務所まで、お気軽にお問い合わせください。

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